第六十八話 秋深しその五
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「ワーグナーが生み出したテノールなのよ」
「そんなに歌える人少ないの」
「あまりにも独特だから。ソプラノもそうだけれどね」
こちららホッホー=ドラマティッシャー=ソプラノと言われている。ワーグナーはソプラノもまた独特なのだ。
「テノールの方がやっぱり」
「独特なの」
「あまりにも独特だから歌える人が少ないのよ」
「どれだけ少ないの?」
「あまりにも歌える人が少なくて上演が限られる位なの」
その役を歌える歌手がいなければ上演出来ない、歌劇だけでなくミュージカルでも宝塚でも言えることだ。
「それ位なの」
「世界中でなの」
「ある歌手はワーグナーを歌えるテノールは世界で五人だけって言ってたわ」
そこまで少ないというのだ。
「これは大袈裟かも知れないけれど」
「五人って嘘でしょ」
「だから大袈裟に言ったか充分以上に歌える歌手は実際にね」
「五人だけなのね」
「そういった歌手もいるわ」
「そうなのね」
「そう、凄く難しい役だから」
トリスタンだけでなくワーグナーのテノール全体に言えることだ。
「歌う方も聴く方も大変なのよ」
「成程ね」
「じゃあ準備体操も終わったし」
話が終わるとここでだった、それでだった。
プラネッツの他の面々と一緒に走った、後は肝心の独呂感想文を書くだけだった。
秋は読書の秋でもあり琴乃は読書感想文を書き終えて先生に提出した。しかしその読書感想文を読んだ先生にこう言われた。
「また変わった作品読んだな」
「そうですか?」
「ああ、ワーグナーとはな」
「別にいいですよね」
「いやいや、ワーグナーは書く方でも有名だからな」
それでだとだ、先生は琴乃に返した。
「別にな」
「合格ですか」
「読んだことと感想文はな」
このことについてはいいというのだ。
「それはいい。だが」
「だが、ですか」
「意外だな、こう来たのか」
「何か奇襲したみたいですね、私が」
「ワーグナーとは思わなかった」
彼の歌劇の脚本はというとのだ。
「はじめてだ、これを読書感想文に持って来た生徒はな」
「そんなに珍しいんですか」
「ああ、先生もこの学校に来て二十年だがな」
大学を卒業してこの学校に就職して、というのだ。
「脚本ははじめてだ」
「そんなに珍しいんですね」
「殆どの生徒が小説だった」
「ああ、やっぱりそうなんですね」
「しかしこれでもいいんだ」
脚本を読書感想文の題材に選んでもだというのだ。
「別にな」
「じゃあ合格ですね」
「不合格とは思わない」
全く、という口調での言葉だった。
「いいぞ、ただな」
「ただ?」
「今年は凄い、もっと凄いのを読んできた奴がいる」
「それ誰ですか?」
「野球部の村山だ」
野球部の一年生の中では
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