ミノタウロス
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ラルカスの声だ。
タバサがわずかに硬い調子で問う。
「この骨はなに?」
「……この辺りに住む、サルの骨だよ」
タバサはゆっくりと、洞窟の奥に杖を構え、俺も戦闘態勢になる。
「子供をさらっていたのは、貴方」
返事はウィンディ・アイシクルで返ってくる。俺はレジスト・ヴィレでそれを防ぐ。
「下がってて」
タバサはシルフィードに命令する。
こんな狭い場所では、元の姿に戻れない。シルフィードは石筍の後ろに隠れる。
タバサはライトの魔法を解除する。そして深い闇が広がった。
そこに低い声が響く。
「少女達よ、諦めろ。全ての利は私にある」
タバサは答えず呪文を唱える。
氷の槍ジャベリンだ。
「一つ目の利……。まずこの闇だ。お前達は私の姿が見えぬが、私には見える。闇はこの体の友だからな」
いや、この中で見えないのタバサだけだ。それも……
「お姉さまの斜め前、左三十度!」
シルフィードがタバサの目の代わりになる。
タバサはその場所に渾身のジャベリンを放つ鉄の鎧さえぶち破る鋭さを込めた氷槍だ。
ぼこっ!と鈍い音がする。命中した。だが……
「なかなか鋭いジャベリンだな。しかし、この厚い皮膚は破れぬよ。さて、次の利点はこの体だ。私の皮膚は知ってのとおり、風の刃や氷の矢などを受け付けぬ」
そしてタバサに向かって大斧を振り下ろす。念のためタバサにバリアーを使っているがタバサはその攻撃を避けた。
「利点、その三だ。私の体力は、人間など簡単にばらばらにできる」
タバサは呪文を唱え、大きなつむじ風を唱える。そして洞窟内の埃を舞い上がらせ、相手の視界をふさごうとした。俺の視界もふさがるが、まあ問題ない。
だが、同時にラルカスも呪文を唱えタバサの目論見を粉砕する。激しい風が舞い上がった埃を洞窟の奥に吹き飛ばす。
「利点、その四。言っただろう?私はこの体を得たことにより、さらに強力な精神力を得ることになった。おそらくスクウェアクラスまで成長しているだろう」
シルフィードが叫ぶ。
「お姉さま!逃げて!分が悪いのね!」
「逃げようなどと考えない方がいい。土地勘のない洞窟だ。焦って駆け出せば必ず転ぶ。それに、どんなに速く駆けても、私のほうが速い」
いや、多分逃げ切れ……もういい。
タバサは覚悟を決めたようだ。杖を構え、真正面からラルカスに対峙している。
そんなタバサの様子を見てラルカスは笑う。しかし、笑い声は出ず、ただ唇の端を吊り上げ、フゴフゴと咳き込んだような呼吸音が出るばかりだ。
「笑うなど久しぶりでね。笑い方すら忘れてしまったようだ。しかし少女よ、小さいながら見事な構えだ。お前のように潔い、貴族らしい貴族は昨今珍しいな」
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