第十九話 長雨
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「満月か・・・・」
そう言いながら、窓を見る。しかし、見えるものはどす黒い曇と、そこから滴り落ちる雨だけだ。厚い雲の上には、煌々と輝く満月が見える筈だ。
「何かあってからでは、遅いのだぞ。分かっておるのか、ヒルゼン!」
「わかってはおる。しかし、他里と戦争をしておる時に身内を疑うなど、気は進まぬ。」
「ヒルゼン!」
鬼気迫る程の迫力である。こやつの言うことも分かる。しかし、心のどこかで、木ノ葉に住まう仲間がそんな事をしまいと、思ってしまうのだ。
「手は打ってある。暗部も動かしておるし、イナリの所にもミナトを寄越した。大丈夫だ。」
「うむ・・・」
ヒルゼンは、私の言葉に一応は黙った。しかし、今だその顔は、納得のいかない顔をしていた。
お互いに何も言わず、部屋に沈黙が続いていた時、思いもよらない人間が、それを破った。
「火影様!すみません、イナリ君は既に家にいませんでした!」
瞬身の術で現れた波風ミナトは、慌てたようにそう、報告した。
「「何!?」」
私達は、その報告にただ、驚愕するしかなかった。
そのほんの少し前、
木ノ葉隠れの里 稲荷神社
ふしみイナリ
雨が屋根を叩き、窓を叩き、静寂とは言い難い夜が続いている。ふと、居間にいた僕は、その音の中に別の音を聞いた。
「ん?なんだ?」
耳を澄まして、音に集中してみる。そうすると、雨が屋根を叩く音に混じって、扉を叩く音が聴こえた。こんな時間に来客か、そう思いながらも玄関に向かう。近づくとはっきりと分かった。本当に、誰か来客が来たようだ。
「はーい、今開けまーす。」
そう言って、扉を開けると思いもかけない人物がいた。
「こんばんわ。イナリ。」
そこに立っていたのは、菜野ハナだった。いつもの服装に、赤色の番傘を持って戸口に佇んでいる。
「どうしたの?ハナ。」
何だか、前に合った時よりも元気になっているように見える。そんな彼女は、いつもの笑顔で答えた。
「イナリに、付いて来て欲しい所があるんだ。」
「付いて来て欲しい所?」
こんな時間に出掛けるなんてのも珍しい事だが、付いて来て欲しいとは、また変な話だった。しかし、昼間の事を思い出した。ハナが僕の事を大切に思っていてくれるなら、僕も大切に思わないと。
「いいよ。」
僕は、快諾した。
彼女に付いて歩いていく。彼女の表情は笑っていた。しかし、前を歩く彼女の背中は、何処か寂しげで、憂いを帯びているように見えた。それが何となく話しかけてはいけないような気がして、黙って歩いていた。そう、思っていた時、彼女は不意に振り向く。
「イナリ、こっちの傘に入らない?」
そう言って、自分の持つ赤色の番傘を指差す。特に断る理由もないので、
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