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戦争を知る世代
第十九話 長雨
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らあったのかもしれない。

「なぁ、イナリ。」

「ん?」
イナリは、長い話で、すっかり冷めてしまったお茶を啜る。

「お前はさ、ハナの事、どう思ってんだ?」

「どうって?」
きょとん、とした顔をしている。

「いや、だからさ・・・・その、なんだーあれだ、あれあれ。」
何だか言っている内に、こちらが恥ずかしくなり、冷めて美味しくもないお茶を啜った。

「あれ?あれって何の事?」
こいつ、本当に分かってないんだろうな。と思ってしまう。ただ、イナリの顔は、いつものままだ。

「あー、もう!・・・好きなのか?ハナの事。」
言ってて、自分で顔が赤くなるのが分かる。それを隠すように、下に向けた。そこに、イナリの声だけが聞こえてくる。

「・・・分かんないよ。そんな事。」

「そ、そんな事って、お前!」
と、そこまで言って、俺の言葉は止まる。イナリの顔を見たからだ。その顔は、どうしようもなく、哀しみや憂いを帯びていた。

「・・戦争でさ、色んな人を亡くしたよね。数え切れない位に。任務があって、里を出たり、見送ったり・・・そんな事をする度に知った人が消えていく。もう、誰が大切で、誰が好きで、誰を守ってあげたかったのか・・・そう言うことが、分かんなくなっちゃったんだ。」

「お前・・・。」
ただ、それしか口に出来ない。

「今度も、大きな作戦、あるよね。攻撃部隊20個小隊、支援部隊8個小隊、単純計算でも、112人参加する事になる。・・・どれだけの人が、生き残れるんだろう?」
違う。そうじゃない、イナリ。俺は、大きな声を抑えようとした。自分のどうしようもない思いが、溢れそうになって、今にも口から飛び出して来そうだったから。

「違う!」
抑えきれなかった。

「違うんだよ、イナリ。俺が言いたいのは、お前の気持ちじゃなくて、ハナの気持ちなんだ。」
イナリは、驚いたような顔をしている。驚きたいのはこっちだよ。俺が、こんなことまで言うなんて。

「ハナの、気持ち?」

「そうだよ。ハナは・・・お前の事が、好きなんだ。直接聞いた訳じゃない。でも、周りから見りゃ、すぐに分かる。」
献身的で、優しくて、でも時々怒ると怖くて。皆にも、気を使える女の子だ。でも、お前には違う。いつも目で追いかけて、お前の事を気遣って、心配して、助けようとする。

「お前がどう思ってるのか、分からない。でも、自分の事を大切に思ってくれてる子がいたら、お前も大切にしてやれよ!」
勢いよく動かした手が、お茶の入った器を倒した。冷めてしまったお茶は、器からこぼれだす。でも、そんな事は気にならない。今は、イナリの目だけを覗いている。

「大切に・・・思ってくれる・・。」
ただ、繰り返す。まるで、自分の心に刻み込むように
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