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追憶は緋の薫り
キミノ声…
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いと、その後のニュースで知った。

 憔悴しきって診察室から出てきた青年を優しく抱きしめたのは学校からの連絡で駆けつけた母だった。

 各々の感情を滴下させた家族がこちらに駆け寄る中、自然と目である人物を探してしまう自分が憎い。


『もうこれ以上お前とは住めない』


 記憶の中の声が胸に突き刺さる。


「父さん、母さん、花桜…………話があるんだ」


 今はまだ話すべきではないと解っているつもりだが、これ以上彼らに迷惑を掛ける訳にはいかない。

 右近(うこん)左近(さこん)と名を呼ぶ紫紺(しこん)の目には緋が灯された。


「僕は二十六代目華衣(はなごろも)に選ばれました」


 空間を破っていきなり彼を護るように左右挟んで登場した金銀の美麗な青年たちに驚きを隠せない家族の目からはすっかり涙は引っ込んだようだ。

 彼は誰かが泣いている姿を好まない。

 それは誰でも言えることだが紫紺の場合は少し事情が違っていた。

 院内アナウンスがどこか違う世界のことみたいに遠くに聞こえる。

 クーラーの良く利いている廊下に立っているだけなのに何故か酷く喉が乾いた。

 次に言葉を紡ぐのさえ躊躇われたのは自分の弱さの所為…。


「だからっ……僕はっ」


 朝のHRが終わり一分遅れで非常勤の音楽教師が重そうな封筒を腕に抱え、教室に入ってきたのを目で確認したクラスメートたちは暗黙の了解で教科書やらノートやらでごちゃごちゃしていた 机の上を片付け始める。

 今回の件は学校側にしても予想だにしない被害だったに違いない。

 あらかじめ用意しておいた二学年用の数学のテストを今日までに作り直し、彼の在籍している二年五組の担任を新たに選考し直さねばならない。

 正直誰が何になろうが興味は無いが取調室で青野が言った言葉には満足していた。


『何故アイツが芽衣子(めいこ)の声を知っていたんだっ!?』

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