第六十七話 秋の味覚その十四
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「私も気をつけてるから」
「今から?」
「そう、大人になったら気をつけようって」
そう思っているというのだ。
「気をつけてるのよ」
「大人になった時は」
「そう、私も三十代になるから」
歳は誰でもとるものだ、ただそれは無事にいけばの話であるが。人の一生はあらゆる意味で先がわからないものだから。
「絶対にね」
「三十路ねえ」
ここでだ、部長は腕を組んでこんな風に表現した。
「よく女は三十路からっていうけれど」
「そんな言葉あるの?」
「うちのお母さんが言ってたわ」
部長は今度は書記に返した。
「女の子はね」
「三十代からなの」
「そう、そう言われてるのよ」
「そういえばあんたのお母さんって」
書記は部長の母親を知っているらしい、それでこう言うのだった。
「あんたそっくりよね」
「クローンかって言われたこともあるわ」
「随分若作りだけれど」
「あれで三十八だからね」
自分の母の年齢も言う。
「見えないでしょ」
「制服着たらあんたと見分つかないわよ」
「よく言われるわ」
「やっぱりそうなのね」
「そのお母さんから言われてるのよ」
「女の子は三十路からって」
「そう、三十代になってどれだけ輝いているか」
それがだというのだ。
「大事だって言われてるのよ」
「あの人がそう言っても」
だが、とだ。難しい顔で返した書記だった。
「どうもね」
「説得力がないっていうのね」
「あの人あんたと同じに見えるから」
外見も年齢もだというのだ、部長の言葉によると三十八らしいがやはりそこもそうは見えないというのである。
「全然ね」
「まあね、私も時々鏡見てるのって思う時あるから」
「あんたのお兄さんは全然違うのにね」
「お兄ちゃんはお父さん似てるの」
「それで背も高くてなの」
「歳相応なのよ」
兄はというのだ。
「お兄ちゃんはね、ついでに言えばお父さんもね」
「それであんたはお母さん似なのね」
「クローンって言われるレベルでね」
部長は書記に目を向けて自分の横顔を見せる形で話す。その視線も小柄な為上それも斜め上の方を向いている。
「言われてるわ」
「その人に言われても」
どうかとだ、またこう言う書記だった。評定も微妙な顔である。
「あまりね」
「まあね、けれどね」
「三十路からっていうのはっていうのね」
「私もその通りだと思うわ。人は四十になれば己の顔に自信を持てっていうし」
リンカーンの言葉だ、顔は最初は親から貰ったものだが後は生き方という意味だ。
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