第六十七話 秋の味覚その十一
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「あれも」
「ああ、きりたんぽね」
「彩夏ちゃんあれも好きなの?」
「冬はいつも食べてるわ」
これが彩夏のきりたんぽについての返答だった。
「お鍋に入れたりしてね」
「じゃあ好きなのね」
「好きっていうかね」
そう尋ねられると、だった。彩夏はこう返した。
「御飯だから、あれ」
「実際に御飯から作るから?」
「そう、御飯嫌いな人いないでしょ」
「まあそれはね」
主食だ、流石に主食が嫌いかというとそうだと答える人間はそうはいないであろう。日本人の場合は御飯だ。
「いないと思うわ」
「そういうことよ、だからね」
「彩夏ちゃんもなのね」
「そう、きりたんぽはね」
「好き嫌いを越えてるのね」
「主食よ」
即ち御飯だというのだ。
「そう思ってるわ」
「そうなのね」
「きりたんぽはいいわよ」
実にだというのだ。
「あれを食べないと冬じゃないわ」
「最近関西のスーパーでも売ってるしね」
「全国区になったわね」
「けれど売ってないとどうするの?」
「お母さんが作ってくれるの」
ないのならというのだ。
「売ってないとね」
「へえ、作るの」
「私も手伝うわよ」
「彩夏ちゃんのお母さんってエスニック派じゃなかったの」
「確かにエスニック料理が得意だけれど」
それでもだというのだ。
「秋田生まれでずっと秋田にいたから」
「きりたんぽもなのね」
「エスニック派である以前に秋田人なのよ」
それが彩夏の母だというのだ、しかしここで彩夏は自分の母を秋田小町とは言わなかった、秋田といえばこの美人だが。
「だからなのよ」
「きりたんぽもなの」
「言われてるわ、きりたんぽを作れないとね」
「秋田人じゃないのね」
「お嫁に行けないってね」
そう言われているというのだ。
「だから私も作ってるのよ」
「じゃあ彩夏ちゃんは」
「そう、私もね」
自分もだというのだ。
「作られるわよ、きりたんぽ」
「そうなのね」
「そう、出来るから」
こうにこりと笑って言うのだった。そして言いながら一杯食べるがそこに早速また蕎麦が入れられてきた。
「きりたんぽなら任せて」
「そうなのね」
「その時はね」
きりたんぽを食べる時はというのだ。
「一家言あるから」
「きりたんぽそんなに詳しいの」
「詳しいのっていうか主食だから」
それでだというのだ。
「まあ楽しみにしていね、きりたんぽ食べる時は」
「ええ、それじゃあね」
こう話してだ、そのうえでだった。
五人はわんこそばを食べ続ける、五人共六十杯まではいけた。しかし六十杯を過ぎた辺りで次第に、だった。
勢いが落ちてきた、それで。
七十杯目になるとだ、景子が言った。
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