第六十七話 秋の味覚その一
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第六十七話 秋の味覚
十一月になった、秋も余計に深まってきていた。
山は紅や黄色に染まり道を飾る銀杏の木達もその独特の葉を緑から黄金に変わっている。そして青いアスファルトを黄色の絨毯で飾っている。
その絨毯の上を歩きながらだ、琴乃は共にいる四人に言った。今五人で学園の中の並木道を歩いているのだ。
その中でだ、こう言ったのだ。
「銀杏って綺麗なんだけれど」
「匂いがね」
「それがよね」
「きついからね」
それでだ、苦笑いで言うのだった。
「困るのよね」
「だよな、この匂いがな」
美優も困った笑顔で琴乃に応える。
「嫌なんだよな」
「そうなのよね」
「まあ何の匂いかは言わないけれどさ」
あえてだというのだ。
「これがな」
「この匂いさえないとね」
「いいんだけれどな」
「普通に綺麗なのにね」
「実も食えるしな」
美優は銀杏のこのことにも言及した。
「茶碗蒸しとかに入れてさ」
「ああ、それもね」
「銀杏の実な」
それもだというのだ。
「いいんだけれどな」
「美味しいわよね」
「ああ。けれど食えるようになるまでがな」
その銀杏の実がだというのだ。
「大変だっていうな」
「そうみたいよ」
景子が美優の今の言葉に応えてきた。
「何でもね」
「一旦土に埋めたりするんだよな」
「そうみたいよ」
「実の匂いだからな」
それが銀杏の匂いだ、あまりにも強烈なそれなのだ。
「そこを何とかしないとな」
「辛いわよね」
「食うにしてはな」
「というか何でそこまで苦労してまで食うんだろうな」
美優は今度はしみじみとして言った。
「銀杏の実ってな」
「言われてみればね」
「まあそうしてでも最初に食った人ってな」
開拓者への言葉になった、今度は。
「凄いよな」
「確かにね」
景子も美優のその言葉に同意して頷く。
「勇者よね」
「海鼠とか食った人もそうだよな」
「そうそう、あれもね」
「ホヤもね」
彩夏は海鼠が話題に出たのでこの海の幸の名前を出した。
「あれもよね」
「ああ、東北の」
「名産よね」
「美味しいわよ、お酒にも合って」
よく知っている言葉だった、東北生まれなだけに。
「冬になったらお祖母ちゃんに頼んで送ってもらってるの」
「冬か、ホヤは」
「秋じゃないのね」
「秋でも食べられるけれどね」
今はというのだ。
「基本冬かしらね」
「そうか、冬か」
「冬に食べるものなのね」
「あれはね」
彩夏はこう四人に話す。
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