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乱世の確率事象改変
彼女は雛に非ず
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と寂寥と絶望。
 片や、自身の立場を脅かす程の存在が輩になる事への歓喜と焦燥に、自分も負けてられないという意思の炎。
 覇王をも試す胆力を確認した華琳は大きな存在が手に入る事にゾクゾクと快感が込み上げて来るも、普段通りの不敵な笑みを浮かべて彼女を見据えた。

「ふふ、あなたはもう雛では無いのね」
「……天駆ける羽を与えて貰いましたから」

 雛里は小さく、華琳にだけ聞こえる声で答えを呟いた。秋斗に出会えたから、自分が前に出る自信や強い意思の翼を手に入れられた、と思い出して。

――愛する男がいるのは構わない。でも私にだけ忠誠を捧げて貰う。鳳凰はこの私の配下にこそ相応しい。そして麒麟と鳳凰は対等に揃えてこそ意味がある。

「いいでしょう。劉備軍が軍師、鳳統の交渉対価……私は受ける。ただし劉備軍の通行料にしては少し貰いすぎね。我が領内を移動中の糧食支援もある程度追加する。……それと徐晃を早急に医者に見せることも約束しましょうか」
「お心遣い感謝します。曹操様」

 ほっと安堵の息をついた雛里は秋斗の元に近付いて行く……事は無く、華琳の足元に跪いた。
 茫然と眺めるのは劉備軍の三人。彼女達の心に来るのは、こんなに呆気なく関係が崩れ去ってしまうのかという空虚な感覚だった。
 朱里は一人、ぽっかりと空いた胸の穴を埋める事が出来ず、親友が自分とは違う主の元に跪くその姿を見て、ギシギシと心が軋みを上げていた。

「鳳統、私の事は華琳でいいわ。我が軍はあなたを心から歓迎する。黒麒麟と並び立ち、私の為にその力を存分に振るうがよい」
「……私は真名を雛里と申します。華琳様、これからよろしくお願いします」

 華琳が椅子から立ち上がり軽く頬を撫でると、雛里は冷たい瞳……では無く、懇願の色を溢れさせた瞳を向けた。

――人を愛するというのはこれほどまでに苦しい事。大切な人を救いたいと願うのはこれほどまでに美しい事。それを穢す事は誰であろうと出来はしない。

 愛おしさが込み上げて抱きしめたくなるも、公式の場である為に彼女が耐えているのだから華琳がそれを崩すわけにはいかなかった。
 故に……小さく、されども力強く頷いて、あなたの望みを叶えてあげると無言で示す。
 数瞬だけ視線を交差させ、華琳は自身の敵対者に向き直り、悲哀と絶望に落ち込んでいる桃香に対して口を引き裂いて言葉を放った。

「劉備、これで貸しは無しよ。鳳統の最後の働きに感謝なさい。心置きなく何処へなりとも行くがいい。そして私よりも自分が正しいと証明することね。
 春蘭は徐晃を我が陣に運びなさい。劉備軍の兵に止められても高度な治療を施せる軍医に見せる為だと言っておくこと。季衣と桂花は私と共に本陣に帰りましょう。雛里に道すがらこれからの戦の予測を聞かせて貰いながら、ね
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