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英雄王の再来
第6騎 決裂
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が、その老練たる大元帥には、蚊ほども焦るものではない。しかし、ノイエルン王太子を守れなかった事がどうしようもなく、彼の心を乱していたのだ。

「突撃せよ!」
ヴァデンスは再度命令し、敵の突出を謀った。しかし、敵も同じ手に乗るばすもなく、突撃される場所の兵達は盾を並べて、騎馬の突撃に備えた。騎兵は、河を越えることで水に足をとられ、その速度を失う。それは、突撃力の減少を意味する。それ故に、盾を並べるだけの防御策でも、アトゥスの騎兵は、攻めあぐねる形となった。チェルバエニア軍は、その隙を逃すこともなく、立ち尽くす騎兵に対して、矢を次々と浴びせかけたのである。相手を突出させるた為に、自軍を突出していたアトゥスの騎兵は、成す術もなく討ち取れていった。それにざわめきたったアトゥス軍を尻目に、チェルバエニア軍は攻勢を強める。
 騎兵の攻撃の為に並べていた盾が、その並びを解いて道が出来たかと思うと、そこからチェルバエニアの騎兵が勢いよく飛び出してきた。河の水を大きく巻き上げ、太陽の光を反射させ、煌めく光の塊となって、秩序を失いつつあるアトゥス軍に突き掛かる。

「やむを得ん。退け!退け!退却じゃ!」
ヴァデンスは、もはや勝ち目はないと判断し、河の東岸への退却を部下に命じた。部下を逃がす為に、自分は敵に猛然と突き掛かる。降り掛かる敵の長剣を避け、手にもつ槍を空いた脇腹に突き刺す。それと同時に、長剣を鞘より引き抜き、今まさに頸骨を狙わんと振るってきた敵の剣を、半月の光を描いて巻き上げ、水飛沫と血飛沫が混ざり合う宙へと放り投げた。獲物を無くした敵兵を一刀のもと切り捨て、次の敵へと刃を振りかざす。そうして、10人は切り伏したか、そう思う頃、既に息は上がり、手に力は入らなくなっている。王より頂いたきめ細かい装飾が彫られた冑も、敵の剣や槍にあい、傷か走り、欠けていく。そして、その色は、赤く血に染まっていた。
 アトゥス軍は、ヴァデンスの働きもあり、何とか潰走することなく秩序を保っている。数多くの兵が、血にまみれる河に伏し、その意識を手放すが、それでも東岸への退却は進んでおり、ヴァデンスと数人の騎兵のみが河に残っているような状態であった。ヴァデンスは、敵軍の中にこちらに駆け抜けてくる者に眼がいった。昼過ぎの天高い太陽の光を黒く反射する仮面を被り、白刃を閃かせて突撃してきたのだ。一瞬のうちに、2つの電光のような一閃が交わり、お互いの間に火花を照らす。その光がまた、黒い仮面を異様な雰囲気を醸し出した。

「面妖とは、まさに、この事!」
ヴァデンスは、大声でその言葉を口にした。それに対して、黒仮面の男は仮面の合間より、鋭い眼光を叩きつける。

「高位なる将とお見受けする。名を名乗られよ!」

「は!無礼な!名を名乗ると言うなら、自分から先であろうが!」
そう言い
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