第6騎 決裂
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に完勝出来ぬ我が軍もまだまだ、と言う事かな?」
私は、やや皮肉を込めて口にする。しかし、彼は、そんな事を一つも気にせずに、答えた。
「その通りです。今のアトゥスなど、片手で潰せなければ。」
厳しい事を言う、そう言い返そうと思った時である。私のその言葉は、駆け寄ってくる連絡兵によって遮られた。
「ウルティモア将軍、トゥテルベルイ客将、出陣の準備が滞りなく整いました。」
「分かった。すぐに行く。」
私はそう答えながら、馬を翻し陣の方へ進めた。何処と無く、潮を含んだ風がにわかに吹き抜ける。その風とともに、憂いを含む声が聞こえた。
「英雄王の御代は・・・こんなものではなかった。」
その声に、咄嗟に振り返ったが、そこに見えたものは、輝く朝日を吸収し、黒く輝く仮面を纏った男だけであった。
クッカシャヴィー河を挟んで対峙していたアトゥス王国軍と、チェルバエニア皇国軍が再び、その河を赤色に染め上げたのは、アトゥス王国暦358年5月3日の昼前の事であった。双方に、最初に対峙した頃より、その数を減らしており、アトゥス軍1万、チェルバエニア軍1万7千である。数で勝るチェルバエニア軍は、兵法に乗っ取り、正面から攻勢をかけた。対するアトゥス軍は、主将を失ってはいるものの、ヴァデンス・ガルフ大元帥のもと、敵を東岸に引きずり込んでの半包囲を目論んでいた。
「突撃!」
大きく、遠くまでも通る声で、ヴァデンスがそう叫ぶと、彼が率いる中央の3千騎が、チェルバエニア軍に向かって猛然と突撃する。槍の矛先を揃え、騎馬の速度と共に敵の懐へ突き刺すのだ。敵がにわかに崩れを見せると、猛然と突撃していた3千騎は、切って返して河の東岸へと退却する。それを2度、3度と繰り返すと、攻撃を受けていたチェルバエニア軍の中央は、反撃する為に少しずつ少しずつと前進し、気付いた時には、自軍の隊列より突出してしまっている。
「それ、今だ!」
アトゥス軍の両翼を率いる兵騎長、兵団長が命令し、突出したチェルバエニア軍に矢を降り注ぐ。チェルバエニア軍兵士は、潮風を割いて飛んでくる矢を防ぐために、盾を頭上に掲げる。それを見計らって、中央の3千騎が槍を揃えて突進し、白く輝く刃をがら空きの懐に突き立てた。人馬が河の上を走り、水飛沫が高く舞い上がる。その水飛沫には、赤い飛沫も混じり、生きているものを、死んだものを選ぶことなく、赤く汚していく。
チェルバエニア軍は、ある程度の被害を出しつつも、まだ、アトゥス軍よりも多く、士気も高い。一度は乗せられて一部が突出したものの、すぐさまに指揮を取り直して西岸へと退却し、整然と陣を立て直した。その光景に、ヴァデンスは焦りを覚える。
「・・・強い。堅固たる指揮とは、まさにこの事ではないか。」
彼にとって、このような難敵は久方ぶりではある
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