第6騎 決裂
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ル・シュトラディールとの間に決定的な溝を作った一夜である。後世の歴史家は、この日をこう記す。“この王家の常時たる決裂は、単なる王族の決裂を意味するものではない。これは、国がその道を別ち、血と刃と、興隆と衰亡、仁慈と礼節を、人格者と臆病者、覇者と王者とを、決裂させたのだ。”と。
アトゥス王国暦358年5月3日 朝
クッカシャヴィー河 西岸
チェルバエニア皇国軍陣営
潮の匂いを含んだ風が、河を陸地に向かって駆け昇っていく。川幅100フェルグ(100m)以上もあるこの河の河口は、陸地から流れてくる淡水と、海から流れ込む塩水とが混ざり合い、汽水域を作る。それは、生命の餌を多く作る場所であり、謂わば、生命の産まれる場と言えよう。しかし、今やその場所は、生命の最後を迎える場となっていた。澄んだ藍色をしていた美しい河は、人馬の血によって、どす黒い赤色に染められている。それを垂れ流す人間や馬、折れた槍や剣、そして、いくつもの旗が流れてくる。その内の一つの旗は、アトゥスの民にとって身近なものであったに違いない。緑の地に、金の太陽が輝く旗−ノイエルン・シュトラディールの“御旗”である。
アトゥス王国暦358年4月26日、チェルバエニア皇国暦では402年の事である。チェルバエニア皇国軍は、国境であるヨルマカイネン河を越え、さらに進軍し、クッカシャヴィー河をも越えて、ノイエルン王太子率いるアトゥス王国軍と対峙した。両軍ともに接する戦いであったが、にわかに体勢を崩したアトゥス軍の綻びを突いたチェルバエニア軍が勝利を得た。しかし、主将を失ったにも関わらず、アトゥス軍の攻勢は強く、一度、クッカシャヴィー河の西岸に陣を敷き直す事となったのである。
「いや、これほどの小国に成ろうとも、アトゥスは今だに強い、そう感じませぬか?」
私は、隣に馬を並べている彼に問うた。その彼は、表情を一切変えずに答える。
「弱い・・・、憤りを感じるほどに弱い。私は、そう思いますよ。」
彼は、その変わらぬ表情に“憤り”を感じているらしい。何故、表情が変わらぬのか。それは、彼の顔の半面が仮面によって、隠されているからに他ならない。黒く装飾された金属の仮面を、額から鼻にかけてを覆い隠しているのだ。しかし、その仮面の合間より見せる眼光は、鋭く、まるで何かを射殺さんとせんばかりだ。
チェルバエニア皇国軍客将キルマ・トゥテルベルイ、5年前に東方の国より来た男で、その才覚が皇帝に認められ、僅か数年で頭角を現した人物だ。歳は、27。顔の上半分を黒色の仮面で隠しており、髪は金色の長髪である。軍では、軍師として皇帝より勅命を受けて参加する為に、身内に敵は多いように感じはする。しかし、話してみれば、“アトゥス王国への異常な憤り”以外は、才覚溢れる軍師と言えよう。
「となると、それ
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