第6騎 決裂
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同じ、くすみ濁った目に、気味の悪い薄ら笑いを浮かべていた。・・・本気なのか。自分の弟を、国の継承権第三位の王子を売ろうとしているのか。この世に、清浄なる王家など存在しない。しかし、それを目の前にして、体の震えが止まらない事に気付く。
「真、なのか・・・?」
私は、答えに苦しみながらも、そう言う事しか出来ない。その答えに、彼の顔は歪んだ。
「ふ、ふはははは、ふはふはふふふ!」
身の毛のよだつ、言い得ぬ気持ちの悪い声で笑った。その笑いに身を固くした次の瞬間、彼は腰に携えていた長剣を閃かせて、振り抜いた。私の頬は、赤色の線を鋭く描いて、切り裂かれた。痛みと驚きに、顔を床にうずくめる。その姿は、まるで頭を垂れるように見えたに違いない。
「お前に選択権などない。最初から、答えなど決まっている。解らないか?テリール・シェルコット。」
痛みに耐えながらも、彼に顔を向ける。答えねば殺される、そう、思った。体が震え、思うように言葉が出ない中で、声を振り絞った。
「わ、分かった。い、言う通りに、にする!」
「ふは!そうだ、そうとしか言い得ぬのだ!」
これは、私が“悪魔の囁き”に耳を貸した瞬間だ。彼は、そう言って、気味の悪い笑いを上げながらも剣を鞘に戻した。
「では、頼んだぞ。必ずや、あの愚直なる弟に絶望たる“死”を!あぁ、あやつの絶望によがる顔が目に浮かぶ。ふは、ふははは!」
恍惚とした表情を見せる彼は、笑いながら部屋を後にした。私は、驚きと恐怖に少しの間、動くことも叶わなかった。しかし、呆然とする意識の中、考えを巡らせる。手にしたエル・シュトラディールの進軍路。これは、非常に重要なものだ。ヒュセルの言う通りにする事は癪にさわるが、危険人物と考えていた人間を殺す事が出来るのは大きい。エルを討った後、切って返してヒュセルを討つことなど容易だ。狂ったように見せる彼など、敵にはなるまい。と言うように、物事の良い面を考えることにした。でなければ、この異様な雰囲気に呑まれそうであったのだ。
異様な雰囲気に包まれたシャプール砦の一室の光景は、この2人だけのものではなかった。まるで盗み見るように、その一室の窓から覗く影が2つあったのだ。その影は、巧みに姿を隠し誰にも見つかることなく、主人の命令をやり遂げた。月に掛かっていた雲が風に流れ、月がその姿を現すと、その光に照らされた顔が浮かぶ。その一人は、赤色を帯びる長い黒髪に、可愛らしい顔である。もう一人は、同じ髪色の短髪に同じ顔をしていた。どちらも、この場には似合わない。
「報告を、ソイニ。」
「そうだね。ルチル。」
そう、言い合って、2人は月明かりが照らす所から、その身を消した。
アトゥス王国暦358年5月1日、王位継承権第二位ヒュセル・シュトラディールと継承権第三位エ
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