『彼』
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、非常に不快な言葉が帰ってくるため、それ以上の追求はしなかったが
その日から暫く『彼』巡って争う日々が続いたが
それも長くは続かなかった
突然『彼』は姿を消したのだ
少し下手な置き手紙に、自分への感謝と謝罪だけを込めて
心にぽっかりと穴が空いたような喪失感
それを埋めるだけの時間をのんびりと過ごす事は、平民であり裕福ではない家族を持つ彼女にとって許されなかった
幸い、オスマンは『彼』について口外しない事を引き換えに
自分をこの学院のメイドとして雇ってくれた。
口封じと監視の意味もあるのだろうが、新人にしては少し多めの給与を提示されれば断れる筈もない
そして、少女はここでメイドとして働く事になる
『貴族』と『平民』その格差に苦労することも多かった。
だが『彼』を巡り争った少女
この学院で再会し『貴族』であった彼女が自分を何気なく庇ってくれたりした事もあり、どうにか日々の無体な激務も過ごす事ができていた
そんな『彼女』も今はいない、暫く前学院をやめ旅立ったのだ
『彼』を探すために
無理だと言った
無茶だと言った
この広い世界で、なんの手がかりもなくたった一人の男を探し出すなど
だけど『彼女』は諦めなかった
それでもだと
それでも好きだから探しにいくと、そして旅立った
…自分は、残った
『彼女』のように生きるには、背負うものが多すぎたから
「これで…よし、と」
何とか繕い終えた服を畳ながら空を見上げる
彼女は『彼』と出会うことができただろうか
…その再開を祈ってあげる事の出来ない自分は
少し、嫌な女かもしれない、そう思った
「へぇ…大したものね」
繕い終えた橘の服を受け取ったルイズの感想である
決闘を経て、大穴だらけになってしまった橘の服は見事に修繕されていた
勿論、それなりに、ではあるが少なくとも一目で馬鹿にされる程のものではない
「はい、家が貧乏なのでこういう裁縫は得意なんです」
こんな事くらいでしか、自分を助けてもらった恩を返せない、その申し訳なさも込めて頭を下げる
「…別に、どうにかしたのは私じゃなくタチバナよ…私は…何も出来ない…貴女だって噂くらい知ってるでしょうに」
少し投げやりな感じで言ったルイズの言葉を、小さく首を降って否定する
ゼロのルイズ
その噂は勿論少女も知っている、だがそんな事は関係ない
「他の方々がどう言われようと、私にとってミス・ヴァリエール、貴方は貴族です…貴女のご命令であればどのような事でも従います」
「…そ、ありがと」
小さく、苦く
それでもルイズは笑った
「世話をかけたわね、感謝するわ」
力なき平民を守る貴族
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