ミュータントの説明はもっと先になるので
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理想を抱く暇もなく、現実はいつも自分たちを追い込み、追い詰める。一切の容赦はなく、慈悲もなく。
――――愛すらも。
「お前はさっき、そいつのことを奴隷と言ったな? この世界でそんな制度はとっくの昔に消え失せたことは、もう教科書で習ったはずだ。にも関わらず、お前はそいつを奴隷と言った。なぜだ?」
「……それは」
「オークションか?」
「!? どうして、それを……」
「聞いたことあるからな。なぁ、お前、オークションにかけられたんだろ? で大蔵家に引き取られた、と」
凛音はベッドの上で肯定も否定もしなかった。ただ、シーツを握りしめる力が僅かに強まるのを冥星は見逃さなかった。
ここで冥星は少し後悔した。別に凛音のことなど興味はないしどうでもいい。しかし結果的に冥星は凛音の出生から今に至るまでの経緯を把握してしまったわけだ。
よくある話なのだ。人身売買など。特に、今の世の中では。
「おい、オークションはいつ開催されるんだ?」
「あなた……子供の分際でオークションに参加する気? 無理よ、それにあんなところ行くべきじゃない」
「つまり、お前は行ったことがあるわけだ。不公平だ、教えろ。さもないとこいつの出生を学校でばらすぞ」
「……まさか、おじい様よりも外道がいるなんてね」
「姫、私はいいよ。こんなやつに話す必要なんてない」
「……いいの、別に減るもんでもないし……一週間後のこの日深夜一二時に大蔵本家の広間よ」
「よし、こんな辺鄙なところまで来たかいがあったというものだ……」
冥星は今日初めて溌剌とした表情になりウキウキと心を躍らせた。頭の中は当然、己の味覚を刺激する数々の食材。それもオークションならではの高級食材だ。
とりあえずどうやって金を調達するかが最善の問題だ。城島家の相続権は冥星にあるが、残念ながら口座は凍結され、キャッシュカードは明子に没収されている。口惜しいこと極まりないが、所詮子供なのだ。どうすることもできない。
脅して金を巻き上げるか。先ほどの様子だと、どうやら凛音が奴隷だと知られてはよろしくないようだ。ここでそんなことを思いつくからこそ、冥星は屑と呼ばれているのだろう。それを実行するからこそ、真の屑なのだ。哀れな子羊共に絶望を味あわせてやろうと冥星の顔が吊り上った――――。
「はい、あなたの分」
「……なんだと?」
饅頭だ。なんの変哲もない饅頭が冥星の前に差し出される。茶菓子に最適な程よいこしあんが口の中で広がりまさにお茶が欲しくなる甘さだ。そんなことを思っていると、これまたあつあつのお茶が差し出される。連続のお・も・て・な・しコンボにさすがの冥星もたじたじだ。あやうく自分はなんて意地汚い愚かな生き物なのだろうと自害してしまうところだった。
「お
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