第七話 三人目その四
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「不幸な家族はあるわ」
「虐待ね」
裕香は菖蒲のその言葉を聞いて顔を曇らせて言った。
「あるわね、確かに」
「そう、残念なことにね」
暗い顔のまま言った裕香だった。
「そうした家族もあるわ」
「というかよ、何で自分の子供いじめるんだよ」
薊は眉をこれ以上はないまでに顰めさせて腕を組んで首を傾げさせた。そのうえでの言葉だ。
「というかいじめとか何でするんだよ」
「薊さんはいじめの趣味はないのね」
「ある訳ないだろ」
即座に返した言葉だった。
「あたしの拳と棒は戦う為のものだよ」
「誰かをいじめる為のものではないわね」
「強さは己を鍛える為のものだろ」
真剣な顔での言葉だった。
「そんなことの為に力なんか持ったら駄目だろ」
「その通りね、弱い人をいじめることはね」
「屑だよな、人間の」
「まさにね」
その通りだとだ、菖蒲も言う。
「そうした人はね」
「それで菖蒲ちゃんもだよな」
「そんな趣味はないわ」
弱い相手をいたぶる様な、とはいうのだ。
「安心して」
「だといいさ、あたしいじめは大嫌いだからさ」
「人として当然だよな」
「けれど。いじめを糾弾するふりをして人を徹底的に潰す人はもっと嫌いよ」
「いたわね、そんな人」
裕香は菖蒲の今の言葉に曇った顔になって応えた。
「この前」
「岩清水といったわね」
「ええ、酷い人だったわね」
「彼の様な人間が一番嫌いよ」
善の仮面を被り相手をそれこそ完全に破壊するまで容赦なくしかも手段を選ばず攻めていく、そうした輩はというのだ。
「本当にね」
「そんな奴もいたんだな」
「かつてはね。それで私の家だけれど」
「あらためて言うけれどいい家だな」
「そう思うわ」
菖蒲はクールな顔でまた答えた。
「自分でもね」
「あたしは家族っていないからな」
薊はこのことは羨ましそうに言った。
「孤児院育ちだからな」
「ご両親がわかっていないのね」
「ああ、全然な」
何一つという口調で菖蒲に返した薊だった。
「親父もお袋もな」
「赤ちゃんの頃から孤児院にいたのね」
裕香がその薊に尋ねてきた。
「そうなのね」
「何か孤児院の前に赤ん坊のあたしがいたって聞いたな」
「捨て子だったのね」
「そうらしいんだよ、まあそれでもさ」
「それでもって?」
「あたし別に親を恨んでないよ」
こう裕香そして菖蒲に言うのだった。
「全然な」
「自分を捨てたのに?」
「確かにそうなるけれどさ」
捨てられたことは自分でもわかっているというのだ、だが薊は自分の頭の後ろに右手を置いてそうして言うのだった。
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