第七話 三人目その二
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「この娘達によかったら」
「あるわよ。菖蒲ちゃんの分もね」
「お母さん、ちゃん付けは」
「いいじゃない、別に」
「恥ずかしいから」
言葉にそうした感情を含ませての言葉だった。
「止めてって言ってるのに」
「何言ってるのよ、菖蒲ちゃんは菖蒲ちゃんよ」
女の人はにこりと笑って菖蒲にこう言うのだった。
「だからよ」
「そうなの」
「そうよ、私達の子供じゃない」
菖蒲に母と呼ばれた人はこうしたことも言った。
「だからいいじゃない」
「それでも」
「恥ずかしいっていう間柄じゃないでしょ」
「親子だから」
「そうよ、だからね」
それでだとだ、こう話してだった。
菖蒲だけでなく薊達も家の中に案内した、そして一階の和風の居間に案内してそこで自分の前にいる二人ににこりとしてこう話したのだった。紅茶とケーキも四つずつ出されてた。数が一つ増えていた。
「私は巨門菖蒲の母です」
「私のお母さんよ」
菖蒲はその人の横でにこりともせず言う、よく見れば顔立ちはそっくりだ。スタイルも背も。裕香はその二人を見比べて妙に思った。
だがそのことを言うと失礼と思い言わない、だが。
その人からだ、こう言ってきた。
「私と菖蒲ちゃんは血がつながっていないの、主人ともね」
「養子、ですよね」
「そのことはもう聞いてるわね」
「はい」
「私は残念だけれど」
ここで菖蒲の母は悲しい顔になって言った。
「病気の後遺症で子供が産めないの」
「そうなんですか」
「だからね」
それでだとだ、菖蒲を見て言ったのだ。
「孤児院にいた赤ちゃんをね。里子として引き取ったのよ」
「それが私なの」
菖蒲は無表情で言った。
「まだ一歳にならない頃にこのお家に来たの」
「生後三ヶ月だったの」
菖蒲が引き取られた年齢は、というのだ。
「ただ菖蒲ちゃんの本当のお父さんとお母さんはわからないわ」
「私のお父さんとお母さんはいるから」
菖蒲は今も無表情なまま言う。
「いいの」
「そう。ただ菖蒲ちゃんはね」
ここでだ、菖蒲の母はこうも言った、今度は苦笑いで。
「無表情なのよね」
「感情を顔に出すことは苦手なの」
「うちのお母さんがそうなのよね」
つまり菖蒲の祖母にあたる女性がというのだ。
「お母さんが菖蒲ちゃんにフェシングを教えたしね」
「お祖母ちゃんは大好きよ」
今も無表情だ、だから薊と菖蒲にはあまりそうは見えなかった。
「私の師匠でもあるから」
「ううん、私はフェシングはしなかったから」
菖蒲の母はそうだったというのだ。
「それはね」
「お母さんがしていたのは陸上だったわね」
「棒高跳びをしていたわ」
「ああ、だからか」
薊は二人のやり取りを聞きつつ菖蒲の母を見てこう言った。
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