第5章 契約
第88話 カトレア
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山沿いと称される地域に分類されるこの村の天候は移ろいやすいもの。特に、冬至の頃なら尚更。
しかし、今日に限っては、遙か彼方まで見渡せるような蒼い蒼穹。そして、火竜山脈と呼ばれるようになって以来初めて、白い装いを魅せる事となった山々の頂きまで見渡せる冬の晴れ間。
燦燦と降りそそぐ冬の陽。その中で短く唱和される口訣。そして重なる導印。
固唾を呑み、ただ見守るだけの瞳。その数はおそらく三百以上。
流石にこれだけの瞳に見つめられると多少は緊張する。まして、瞳には某かの魔力が宿る物。それがこの村を包む陰鬱な気と合いまって、少し不快な雰囲気を作り出した。
しかし……。
次の瞬間。正面を見つめていたタバサが俺の方を顧み、そして微かに首肯く。
これは、彼女も俺と同じ結果を得たと言う事。もっとも、この場に村人たちが集められた段階で、この結果は有る程度の想像が付いていたのですが。
「村長、安心して下さい。この場に集められた村人の中には、人に擬態した吸血鬼や、ましてグールなどの人ならざるモノは存在して居ません」
村の中央広場に集められた住人の前……。その入り口に近い辺りに据えられた一段高い台の上から、ルルド村の村長さんにそう話し掛ける俺。
但し……。
「しかし、騎士従者さま。そんな簡単な魔法一度だけで、これだけ多くの人間を調べたと言われても……」
白い髭に隠れた口から、そう問い返して来るルルド村の村長さん。流石に最後の方は言葉を濁したけど、それでも皆まで聞く必要はない表情及び雰囲気。まして、この場に集められた住民の八割までが、彼と同じように信用していないと言う雰囲気ですから……。
もっとも、この雰囲気は当然と言えば当然。俺の見た目は何処からどう見ても少年。年齢的にはギリギリ青年とみられたとしても不思議ではないのですが、東洋人で有るが故に、肩幅や身体がどうしても少年の身体に見える事は間違いなく……。そして、タバサとブリギッドに至っては、身長が百四十から五十までの間。見た目も間違いなく幼いと言う形容詞が付きかねない少女のソレ。こんな連中が効果のはっきりしない、まして、派手さのない魔法を使用して、この場に吸血鬼やグールの擬態した存在がいないと太鼓判を押したトコロで、信用出来るかと言うと……。
こりゃ、極度の悲観論者に成って居る可能性の高い村長さんでなくても信用出来なくて当然ですか。
う〜む。しかし、俄かには信用出来ないと言われても……。
「取り敢えず気休め程度にしかならないでしょうが、それでも私は断言します。ここに集まった村人の中に、人の振りをした人間以外の存在は居ませんよ、村長さん」
口ではそう答えるだけの俺。もっとも、それだけで信用を得るのは難しいでしょうから……。
何か別の
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