第六十四話 甲子園での胴上げその十六
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「あと一球」
「あと一球でね」
「あと一球で日本一」
「いよいよ」
「その時が」
「なあ、いいよな」
美優が四人に言う。
「日本一になった時はな」
「乾杯よね」
「もう飲めるだけ飲んで」
「ああ、そうしような」
絶対にだとだ、こう言うのだった。
そして実際にだ、その手に焼酎が入ったグラスを手に言うのだった。
「乾杯しような」
「日本一の時はね」
「その時になったら」
「皆今はグラスを一杯にしてな」
「もうそうしてるわ」
「待ってるから」
言うまでもなくだった、このことは。
「いよいよだから」
「本当に」
「ならいいさ、あと一球だから」
それでだった、本当に。
その一球を待つ、すると。
腕が唸りだ、そうして。
勢いのあるストレートが入った、キャッチャーミットに。
バッターはもう手が出なかった。スピードガンは一五六キロを示していた。そしてその剛速球の判定はというと。
「ストライク!」
審判の右手が上がる、その次の言葉は。
「バッターアウト!ゲームセット!」
この言葉が出た瞬間にだった、ピッチャーは全身でガッツポーズをし。
キャッチャーは立ち上がりマウンドに向かう、そしてナインも。
阪神の選手達がマウンドに殺到し抱き合う、甲子園にこれまでなかったまでの風船が舞い飛び。
黒と黄色が乱舞する、声は最早地響きだった。
そしてその歓声の中でだ、監督が胴上げされてだった。
勝利の凱歌があがる、それを前にして琴乃達もだった。
乾杯をして飲む、美優は焼酎を一気に飲んでから言った。
「やったよ!」
「うん、やったね!」
「阪神やってくれたわ!」
「日本一!」
「甲子園で胴上げよ!」
全員で言う、そして。
そpの酒を飲みだ、それぞれ焼酎をグラスに入れてさらに飲んでだった。
美優はだ、満面の笑顔でこう言った。
「なあ、夢じゃないよな」
「頬っぺたつねる?」
「そうしてみる?」
「痛いよ」
自分で左頬を摘んで捻ってだ、美優は答えた。
「痛いってことはな」
「そうよ、酔っていてもね」
「夢じゃないのよ」
「阪神優勝したのよ」
「実際にね」
「だよな、優勝したんだよな」
今も夢を見ている様な顔だがだ、美優も夢ではないとわかった。
そしてだ、こうも言うのだった。
「嬉しいよ、やっとだよな」
「阪神がねえ」
「日本一になったのよね」
「ずっとさ、ピッチャーはよくてもさ」
どれだけ暗い時代でもピッチャーだけはいい、それが阪神だ。
だがそれだけで野球は勝てるものではない、ピッチャーこそ最重要だというがピッチャーだけで勝てる程甘いものではないのだ。
「打たなくてな」
「いつも僅差で負けてね」
「地獄のロードから特に」
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