第六十四話 甲子園での胴上げその九
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「いけるわ」
「打ってくれよ、おい」
美優は右手に持っているメガホンを剣道の素振りの様に上から下に振ってテレビの高さで止めてからこう言った。
「是非な」
「そう、ヒット一本でも」
「それでもいいから」
景子と彩夏は最低限でもという感じだ、だが。
打って欲しいという気持ちは同じだ、そのうえで阪神の攻撃を見守る。そしてここでだった。
バッターのバットが一閃した、すると。
甲子園の大観衆は一瞬静まり返った、解説も。
そしてその一瞬の沈黙の後でだ、球場がまさに揺れた。
ボールはレフトスタンドの場外に消えた、一体どれだけ飛んだだろうか。
その場外ホームランを観てだ、甲子園はまさに揺れたのだ。
琴乃達もだ、それを観てだった。一瞬の沈黙の後で大騒ぎになった。琴乃は画面を観ながら四人に言った。
「観た!?観たわよね!」
「ええ、観たわよ!」
「ホームランよ!」
景子と彩夏が叫ぶ。
「満塁ホームランね」
「まさかと思ったけれど出たわ」
「これで四点」
「これは大きいわよ!」
「おい、これが千両役者っていうんだよな!」
美優もだ、喜びを隠せない顔で言う。
「まさに」
「そう、これは本当にね」
里香は興奮を隠せない顔であった、そして。
そのうえでだ、幾万もの雷の様な歓声の中を回る千両役者を観て言った。
「決まったわ」
「阪神の日本一が」
「これで」
「ええ、まずね」
そう観てだ、間違いないというのだ。
「決まったわ」
「そうよね、これでね」
「阪神の日本一が決まったのね」
「これで」
「これ以上はないわ」
そこまでだ、確かな一撃だったというのだ、先程の満塁ホームランは。
「もうね」
「そう、それじゃあね」
「阪神はこれでね」
「日本一になれるのね」
「本当に」
「長かったわよね」
里香はしみじみとした調子で言った。画面を観ながら。
「日本一まで」
「八十五年からね」
「私達が生まれる前からね」
「リーグ優勝はしたけれど」
「日本一はなかったからね」
「長い間」
「その間暗黒時代もあって」
長い長い暗黒時代だった、その暗黒時代は。
「最下位もね」
「何度もあったしね、最下位も」
「それも」
「それで星野さんが優勝させてくれても」
それでもだったのだ、阪神は。
「すぐに打たなくなって」
「ピッチャーだけのチームになってね」
「どれだけ補強しても」
何故か補強したバッターが夏には打たなくなるのだ、阪神というチームにとって夏はまさに鬼門である。
「打たなくなって」
「それで負けていって」
「Bクラスにもなって」
「そうした低迷期もあったけれど」
「それがね」
里香はそれまでの暗雲を吹き飛ばす様にして言い切った。
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