第六十四話 甲子園での胴上げその七
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「ここで打たれたらね」
「このまま一気に流れがロッテにいって」
「それで試合を決められるのね」
「この試合を」
「そうなるんだな」
「そう、それでタイになるから」
シリーズ全体の状況にもだ、影響するというのだ。
「だからね」
「ここは打たれたら絶対に駄目」
「正念場ね」
「今この場がか」
「そうなの、何としても」
里香はこのシリーズで最も緊張した顔で述べた。
「抑えて欲しいわ」
「難しいけれどね」
それでもだとだ、里香も固唾を飲んで試合を観るのだった、すると。
まずロッテの三番をだった、彼を。
三振に取った、勢いのあるストレートで。
四番もだ、四球目に。
バットが空を切った、連続三振だった。
五番もであった、彼もまた。
三振だった、ここでもストレートだった。
三者連続三振、相手のクリーンアップをだった。球場のファン達はそれを観てボルテージをこれ以上はないまでに上げた。
そしてだ、琴乃達もだった。
テレビの前でガッツポーズをした、そして。
そのうえでだ、里香が言った。
「よかったわ、本当に」
「ああ、本当にな」
美優もだ、ガッツポーズをしてからだった。
ほっと胸を撫で下ろした顔になってだ、こう言った。
「絶体絶命のピンチだったけれどな」
「凄かったわ、剛速球でね」
「三者連続三振なんてな」
「それも相手のクリーンアップをね」
「普通あそこは打たれてたよな」
「ええ」
その通りだとだ、里香は驚きを隠せない顔で美優に答えた。
「マリンガン打線は凄いから」
「連打でだよな」
「まして三人共勝負強くてバットに当てることも上手だから」
「若し当たってたらか」
「危なかったわ」
「三塁にランナーいたからな」
絶対の得点圏だ、それこそである。
「外野にフライが上がってもな」
「一点入ってたわ」
「本当に打たれるだけでな」
「そう、危なかったわ」
下手をすれば内野ゴロでも一点だった、そうした状況だったのだ。
「三塁ランナーも足が速いから」
「トップバッターだしな」
「一番バッターの仕事は得点することよ」
だからこそチームで一番足の速い人間がそこに入るのだ、福本豊にしても盗塁が本職ではなく得点を上げることが仕事だった。
「だからね」
「あのランナーはまずかったな」
「ええ、とてもね」
「けれど三者連続三振に取ったから」
「最高の結果よ」
まさにだ、それだったというのだ。
「本当に力投だったわ」
「だよな、本当に」
「それでね」
「それで？」
「ピンチを凌いだから」
その剛球一直線の力投でだというのだ。
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