殺戮勇者
[1/3]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
これは今から千年前のお話です。
世界は魔王の脅威に脅かされ、たくさんの人が死に、たくさんの涙が流れました。
ある時、心正しき一人の乙女が、自らの腹を裂き、決死の想いで神へ救いを祈りました。
乙女の悲痛なる祈りを聞き届けた慈悲深き光神様は乙女の腹に白の勇者を授け、少女の命をも救って下さいました。
やがて生まれた白の勇者は、光神様と同じ白銀の髪と黄金の瞳を持つ美しき少女へと成長し、見事魔王を討ち果たしました。
しかし、脅威は続きます。
白の勇者が魔王の呪いに身を蝕まれ、次なる魔王へと成り果ててしまったのです。
光神様と同じ白銀の髪は黒く染まり、黄金の瞳は赤く染まりました。
呪われし白の勇者は次々と人々を襲い、六つの国を亡ぼし、呪われた勇者の色彩は返り血で赤く染まりました。
光神様は嘆き悲しみながらも白の勇者を倒すため、帝国の騎士に加護を与え、勇者の力を授けました。
騎士の髪は神の加護に耐え切れず黒く染まりましたが、快晴の瞳は黄金に輝きました。
騎士は黒の勇者と呼ばれ、白の勇者を激闘の末に異界へ封印することに成功しました。
黒の勇者は永遠の時を生き、今も封印を守り続けています。
◆
《殺戮勇者の物語》は誰もが一度は聞いたことのある実話だ。
幼き頃、柔らかなベッドの中で母親に読み聞かせて貰った人は多いだろうし、そうでなくとも学校で習うだろう。 『悪い子のところには殺戮勇者がくるぞ』というフレーズはいたずらっ子を驚かすお決まり文句だ。
しかし、エレンがこの物語を知ったのは極最近、ちょっとした偶然からだった。
暇つぶしに家の書庫を物色していて、たまたま目についたのがこの物語だったのだ。
「ね、ねえ……ホントにやるの?」
「ここまで来て何言ってんだよ……! お前の唯一の特技、釣り技を生かす絶好の機会なんだぞ……! なあ、エレンも何とか言ってやれよ」
木の上に潜む二人の少年が、エレンと呼ばれた少年を振り返る。
何かを期待するような眼差しに、エレンはハッと我に返ったが、意識を別の所へとばしていたことを億尾にも出さず、ヘラリと微笑み口を開いた。
「んー、やりたくないなら無理にやる必要無いと思うけど……とりあえず村長はもう来ちゃったみたいだよ?」
「ええっ!」
「マジだ! もうすぐ下通るぞ……! 腹くくれ!」
「そんな……うう、もうなるようになれっ」
少し太った少年が、木の下を通り過ぎようとする村長に向けて釣り針のついた糸を投げつける。
それは村長の頭にひっかかり、見事被っていたカツラを吊り上げた。
「ギャ!?」
「よっしゃ! でかしたー!」
「に、逃げろぉお」
「こ、こらーー! それを返
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ