殺戮勇者
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たわけでは無い。 ごく自然にそんな考えにいきつき、エレンの人格はそんな価値観によって形成され、それ故に破綻していた。
自宅に着き、無駄に立派な木製の門を押し開いて敷地内に入る。
中はしんとしており、人の気配は無い。 休みの日だから当然だ。
しかし、踏み石の上を歩いて引き戸を開け、家の中に入ると奥から女の声が聞こえた。
面倒であるが、帰宅したことは伝えなくてはならない。 父親の自室が近づくにつれ、肉を打ち付ける音と女の嬌声がはっきり聞き取れるようになったが、特に何か思うでもなくエレンは部屋の障子を開けた。
「ただいま」
「ふぇ!? あっ……きゃあっ!」
エレンの父親と絡み合っていた花屋の娘が慌てて身体を隠そうとしたが、父親が動きを止めないため無駄な努力に終わった。
「ち、違うの、エレン君、これは――ああんっ」
「言い訳しなくても、大丈夫だよ〜。 どうせ相手はお姉さんだけじゃないし。 でも父さん、母さんの命日まで……よくやるね〜」
「えっ――ひぁっ……ま、待って……あああっ」
「……」
父親は無言でエレンをちらりと見やり、そのまま目を逸らした。
エレンはしばしの間、まるで娘が野獣に貪り喰われているかのような光景を眺めながら父親の言葉を待ったが、父親が何も言わないことが分かると肩を竦めて「じゃあ俺は部屋に戻るから、程ほどにね」と言い残し父親の部屋を後にした。
ふと、脳裏をお気に入りの殺戮勇者の物語が過った。
(殺戮勇者。 哀れな呪われた勇者)
(彼女は本当に呪われていたのかな?)
鼻歌を歌いながらエレンは歩く。
(彼女が封印された後、帝国は戦争を始めた。 黒の勇者は前線で戦い、多くの国を征服した)
(彼女の母親は聖母と祭り上げられ光神教の光皇として贅沢の限りを尽くした)
学校では、黒の勇者のその行いについて悪い国を倒して世界に繁栄と平和をもたらしたと教えているし、聖母は光皇として世界中に救いを齎したと教えている。
しかし、エレンは正しくその本質を見抜いていた。
(魔王を討伐したって平和が訪れないことに彼女は気づいたのかもしれない。 殺戮勇者が自分の意志で人類を滅ぼそうとしたとしても不思議は無いな)
(あーあ……彼女が生き返れば、もう少し世の中が面白くなると思うんだけどなぁ)
千年前の人々が聞けば卒倒するようなことを考えながら冷たく冷えた木の廊下を歩いていたエレンは、微かに、誰かに呼ばれたような気がして立ち止まった。
【Q.《殺戮勇者》を合法投棄場へ投棄しますか? →Yes/No】
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