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ゴミの合法投棄場。
殺戮勇者
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しなさいっ!!」

 カツラを回収しつつパッと木から滑り降りて逃げ出す二人を、顔を真っ赤にした村長が慌てて追いかけていく。
 それを見送ってからエレンはゆっくりと木から降りた。

 ここは小さな村だ。 村長がハゲていることはみんなが知っていて、しかし誰も指摘してはいけないという暗黙のルールがある。 何せ、彼はまだ二十代。 ハゲるには若すぎた。 

 エレンは一抹の憐憫を感じて若き村長の背中を見つめる。
 同情すべきは、若くしてハゲたことに対してでは無く、似合わぬスーツを着て、愛しの花屋の娘に告白しようと息込んでいた時にカツラを奪われるという不幸に対してでも無い。

 エレンは彼の恋が成就しないことを知っていた。

(くだらない)
(くだらない、くだらない)

 エレン=ザークシーズ。 三方を山に囲まれた名もなき小さな村の、昔から続く剣道場の一人息子。
 12歳という幼さであるにも関わらず、その身に仄かな色香を纏う。
 しかし、その相貌の美しさは清らかさを感じさせ、色香と清らかさが入り混じる深入りすれば二度と戻れないような怪しい魅力を持つ少年であった。

 しかし、その美しさは長く伸ばした前髪に隠され、更に掴みどころの無い飄々とした態度が人に深入りさせることを躊躇させる。 その結果、村人に彼を平凡な一人の少年として扱わせることに成功していた。

(面白いことがあるというから来てみれば……欠伸をかみ殺すのが大変だった)

 なだらかな下り坂をゆっくり歩く。 春の風に、一つに結わいた漆黒の長い髪が靡き、花の香りが鼻腔をくすぐった。
 
「こんにちは、エレン」
「こんにちは、お姉さん」
「おや、エレン。 さっき村長が大変なことになってたけど、あまりイジメるんじゃないよ」
「酷い! 俺は関係無いよ!」

 好意的な笑顔で話しかけてくれる人々に、明るく言葉を返しながらエレンは自宅へ歩を進める。
 やがて人通りの少ない場所に差し掛かかると「うーん」と伸びをして澄み渡る空を見上げ、そのまぶしさに目を細めた。

(ああ――退屈だ)

 ◆

 エレンは虚無主義者にして享楽主義者である。
 彼の全ての思考は、『この世の全ては無駄であり、無意味である』という前提の上にある。
                                    
 生きて、繁殖して、死んで、そこに何の意味がある?
 無駄無意味無価値。 滅ぼうと滅ぶまいとどちらでも構わない。
 無駄でしかないことに、価値を見出す人間たち。
 無様で、愚かで、だからこそ――面白い。

 今を楽しむためなら何を犠牲にしても良い、面白ければ何でも良い。 何かきっかけがあっ
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