オリジナル/ユグドラシル内紛編
第51話 異常報告 B
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「呉島碧沙――今は私の手の内にあるキミの妹を無事に返してほしければね」
がたん! 貴虎が凌馬に詰め寄った。
「どういう意味だ」
押し殺した声で聞くくせに、君は答えを知っているじゃないか――凌馬はにこりと笑った。
「稀なる蝶がようやく手に落ちてきたんだよ。おめでとう、貴虎。これで人類60億人を虐殺するなんて真似しなくてよくなったんだよ。犠牲はキミの妹ただ一人だ」
これには咲がテーブルに乗り上げ、凌馬の白衣を掴んだ。
「ヘキサになにしたのよ!」
「まだ何も。本格的な検証と実証はこれからだから。大丈夫。非道いことはしないよ。ドライバーの開発と違って、替えが効かない大事な検体なんだから。代わりが居ない分、一人だけで色んなことをがんばってもらうけれどね」
湊が動いた。テーブルに乗っていた咲を猫の仔のように掴んで下ろし、そのまま両手をバンザイさせて拘束する形で自分の前に捕えた。
「はーなーしーてーっ」
「湊!?」
「考えてもみたまえ。対話に積極的でない、むしろ我々を襲ってサル呼ばわりする怪物と交渉するより、キミの妹一人を精密検査したほうが、人類の生存率は高い。それとも、妹かわいさに、成立する見込みのない交渉とやらに賭けて、貴重な時間を無駄にする?」
「だとしても、それが何故、妹を調べることに繋がる」
「ヘルヘイム抗体」
凌馬は席を立ち、いつも貴虎が使っているデスクを回り込むと、そこのオフィスチェアに腰かけ足を組んだ。
「ヘルヘイムの因子を拒絶する免疫のようなモノ。私はそれを仮にそう呼んでいる。貴虎、キミの妹、呉島碧沙が体内に持つモノだ。現にあの子は」
プロジェクターの画面をシドが切り替える。映し出されるのは、入院患者の青い服を着た碧沙の、挙げられた右手の甲についた裂傷と、その切り抜き写真。
「インベスに裂傷を負わされたのに、ヘルヘイムの植物の苗床にならなかった。いわば生きたワクチンの塊なんだよ」
「ヘキサをそんなふうに言うなぁ!」
咲が暴れるが、それも湊が押さえていては大した抵抗にならない。
それに、室井咲の発言には理論が含まれていない。そんな言葉は戦極凌馬にとってただの雑音だ。
「ああ。あの子の研究は私の直轄だ。丁重に扱うから安心してくれ。もっとも、キミがどんな態度に出るかで、私の手元も狂ってしまうかもしれないがね」
「りょう、ま――!」
貴虎は今にも凌馬に殴りかからんばかりの形相だ。凌馬は胸の空く思いだった。
これで貴虎の動きは完全封殺した。妹可愛さがある限り、貴虎は凌馬の要求を呑まざるをえない。
咲も同じだ。親友を盾に取ったのだから、もしかすると貴虎より従順になるかもしれない。
オーバーロードは探させない。あれらは、あれら
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