オリジナル/ユグドラシル内紛編
第50話 異常報告 A
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「オーバーロードという、知性を持つインベスが発見された」
貴虎自身が上座近くに立つ。
「そのオーバーロードが、ヘルヘイムの生態について我々以上の知識を持っているとしたら、侵食を食い止める手段が見つかるかもしれない」
「そのオーバーロードとやら、そもそも言葉通じんのかよ」
「救助した調査員によれば、片言だが人語、それも日本語で話しかけてきたらしい。威圧的だったそうだが、会話が全く成立しないわけではない」
貴虎の目線が咲に向いた。咲は一瞬戸惑ったが、慌てて、自分が知る情報をたどたどしく話し始めた。
「紘…葛葉さん、は、このことは、DJサガラから聞いたって、言ってまし、た。一度戦ったけど、すごくすごく強くて、“森”の植物を操ったりした、そうです。オーバーロードが、自分で言ったんです。長い長い間、“森”にずーっといてタイクツ、だって」
「退屈、ねえ――」
凌馬は着席してからずっとソファーの手摺を指でこつ、こつ、と叩いている。退屈、とオウム返しにした彼自身が、この報告会を退屈だと言っているように見えた。
「室井さんの話を聞く限り、オーバーロードは人類に敵対的なようですが?」
湊の声からは咲への敵意を感じ取れない。彼女は淡々と事実確認を行っているに過ぎない。
「ああ。交渉も徒労に終わるだけかもしれない。ゆえに上層部にはまだ報告しない」
「しばらくは我々だけの秘密、ということですか」
「幸い、プロジェクトアークが本格始動するまで、まだ時間はある。これからはオーバーロードの捜索及び調査を主眼に――」
「残念だが」
声を張ったのは凌馬だった。
「私は賛成しかねる」
「……意外だな。お前なら興味を示しそうな話題だと」
「私も科学者とはいえ人の子だからね。手間と時間を費やすなら、より抜本的な解決を見込めそうな素材のほうにと思ってもしかたないだろう?」
内容はともかく、難しい単語が多くて、咲は首を傾げるしかない。
「だからね、オーバーロードは放っておいてほしいんだ。もう必要ないから」
「ダメだ。対策はある限りのものを講じるべきだ。お前が何を見つけたかは知らないが、それと並行してオーバーロードの調査を」
「ああ、もう! せっかく人が平和的に事を運ぼうとしてあげたのに!」
凌馬は癇癪を起こしたように頭を掻き、冷たい目で貴虎を見据えた。
「もういいや。さっさとすませよう。貴虎、私の要求を呑んでもらう。呉島碧沙――今は私の手の内にあるキミの妹を無事に返してほしければね」
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