第16話:ただ自分を超えるために(1)
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いるようだった。子ども達が何か俺達と逢を呼んでいる気がしたので、その方に足を運ぶ。
「ケイくん、どうしたの?」
と、俺達を呼んでいたケイくんに優しい口調で尋ねる。周囲の子どもがニヤニヤした表情で、お前聞けよ、あんたが聞きなさいよと質問を投げる責任者を押し付けあっているようだ。
「もう、ケイくん、どうしたの」
そのケイくんは口をもごもごさせた後、次の質問を投げかけた。
「あのね、あいちゃん。ひょっとして、この前言ってた好きな人ってこのお兄ちゃんのこと?」
「ば、ばか!何を言ってるの!」
「あ〜赤くなってる!やっぱりこの兄ちゃんなんだ!」
周囲の子ども達のボルテージが高くなる。どんな世代でも、こういう話題で盛り上がるのは変わらないようだ。
「でもこのお兄ちゃん、ひびきお姉さんと手を繋いでるよ」
「きっと、フタマタなんだぜ! フタマタ!」
「しゅらば、しゅらば」
その子ども達の言葉に自分の左手を見る。堅く握られた手と手、そして俺のものじゃない手の持ち主の顔を見ると顔を赤くした響がいた。さっきから、どうにも喋らないなと思ったら、ひょっとしてこれで気恥ずかしかったのか。
「あ、いや、すまない」
「あ……」
と、さっと手を開いて響の手を離す。響は小さく声を出して、繋がれていた方の手の平を見る。もしかして、手汗でも掻いていたのかなと思い、俺も自分の手を見るがプールの水のせいでよく分からなかった。それでも、雰囲気が何かいつもと違う感じがするぞ。
「むぅ……」
「あれ? あいちゃんがちょっと怖い顔になったよ?」
「知ってるか? あれって『しっと』って言うらしいぜ!」
「やきもち、やきもち」
「もう、貴方達は自分のレースに向けてちゃんと泳いでおきなさい!」
と、逢は何かちゃちゃを入れていた子ども達を叱り付ける。子ども達は「うわー! 逃げろー!」と言って、全員一列で向かいのコーチたちがいる方に泳いでいく。
逢は顔を真っ赤にして、肩で息をしている。やれやれ、逢も響も年下から慕われるのはいいが、からかわれやすいのは同じなんだな。
俺達は、プールの中で泳いでいる子ども達の姿に気持ちが向いていて、後ろから迫る捕獲者の気配を感じることは出来なかった。
「げっちゅう〜!」
「わわっ!」
隣に立つ逢が驚いた声を挙げる。何事かと思って横を見ると、大きな何かが後ろから逢を抱きしめていた。視線を逢の顔から少し上に上げると、眩しいくらいに輝いている森島の顔があった。
「遠野君! この子、すっごくカワイイ!」
「い、いきなり、なんですか!」
いきな
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