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打球は快音響かせて
高校2年
第二十九話 9番打者
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嫌そうにしかめるが、口元が微妙に緩んでいるあたり、満更でもなさそうである。

「1点でよく止めたよ。点は取られたけど、これからこの試合動き出すはず。相手のペースに呑まれずに、構え遅れずしっかり狙い絞っていけ!」
「「「オウ!」」」

守備を終えて帰ってきたナインを、浅海が攻撃前の円陣で鼓舞する。ナインはその言葉に力強く頷いた。

夏と違って、先制される展開。しかし、三龍ナインには焦りはなかった。



ーーーーーーーーーーーーーー



バシッ!
「ストライクアウト!」

しかし、反撃に出たい三龍打線の前に城ヶ島が立ちはだかる。点を取った後の守りが大事。その常識をキッチリ体現するかのように、ビシバシとコーナーに決めて7番の鷹合、8番の美濃部を打ち取った。

<9番ファースト安曇野君>

そして打順はラストバッターの安曇野へと回る。夏まではベンチ外だったが、夏休みの練習試合で好調をキープしレギュラー入りした2年生だ。

(やべーな。相手のペースになってきよる。)

左打席に入ると、安曇野はバットを目一杯“長く”持って大きく構えた。それはさながら強打者のようで、先ほど同じ場面で打席に立った海洋の9番・高口とはまるで正反対の構え。
そうなのだ。安曇野は9番ではあるが、打撃優位の選手なのである。

(ポンポン投げ込んできよるけ、どーせ俺の事も舐めてきよるんやろ。普通に打っても打てんけん、狙い球一個だけ絞って振るだけや。)

安曇野の狙いはスライダー。引っ張りが得意な自分が最も打てそうな球に狙いを絞った。
初球、その狙いのスライダーがストライクゾーンに入ってきた。

(打つ!)
カーーン!

食い込んでくるスライダーを思い切り引っ張りこんだ打球はライトポール際にぐんぐん伸びる。

「えっ」
「マジかっ」
「入れ!入れ!」

三龍ベンチも、9番のまさかの打球に身を乗り出して声を上げる。打球はそのままライトポール際に飛び込んでいった。

「よっしゃーーっ!」

一塁ベースを蹴った所で打球の行方を確認した安曇野は飛び跳ねてガッツポーズ。これが高校通算第一号のホームラン。その第一号がこの準決勝の舞台で飛び出した。

「うぉーっ!」
「ナイスバッティーーン!」
「一生に一度の当たりやーー!」
「まぐれ当たりの大打者ーー!」

味方ですら期待していなかった伏兵の一発に三龍ベンチはお祭り騒ぎに。とられたら取り返す。
先制された直後の攻撃ですかさず追いついてみせた。

(……はぁ?キモッ)

捕手のポジションで呆れた顔をしている川道は心の中で悪態をついた。

(こんなポンポンアウトになった後の9番が、何で初球から打ってくんねん。普通粘って攻撃長引かせようとするやろ
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