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打球は快音響かせて
高校2年
第二十九話 9番打者
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第二十九話



「おーっす!」
「あ、林さん!お早うございます!」
「「「お早うございます!」」」

応援席で太鼓やメガホンなどを準備しているベンチ外の1、2年生の所に、制服姿の3年生達がぞろぞろとやってきた。その数、10人以上。

「先輩、進路大丈夫なんですか?」
「俺はまぁ、推薦もらえそう。ま、受験する奴も1日くらいここ来たって別に影響ないけ。」

林はそう言うと、グランドに目を向けた。
マリンブルーの海洋のユニフォームと、クリーム地に紺の漢字の校名、自分が夏まで来ていた三龍のユニフォーム。秋の早朝の涼しい空気の中で、両軍が精力的に体を動かし、アップに励む。

「俺らは3回戦、こいつらは準決で、か…」

どこか羨ましくもあり、どこか誇らしくもある。
応援席から見ている事しか出来ないのは歯がゆくもあるし、しかしこの舞台は自分などには与えられるものではなかっただろうという諦めもある。あの夏から数ヶ月。18歳は、少しずつ諦めを覚える。

「頑張れよォーー!」

林は大声で叫んでいた。



ーーーーーーーーーーーーーー


「後攻お願いします。」
「あ、やっぱり?」

試合前のオーダー交換、そして攻めの順番決めのじゃんけん。主将の渡辺は、海洋の主将の川道と相対してじゃんけんに勝ち、後攻をとった。
川道はじゃんけんに負けると大げさに悔しがり、それを見守っていた海洋の闘将・高地監督がはぁーと大きなため息をついた。

「それではお願いします。」
「おう、よろしく。」

浅海が頭を下げ、高地監督がそれに鷹揚に応える。甲子園優勝経験のある名将でもさすがに女の監督を相手にするのは初めてだし、それが準決勝の舞台でと言うのも驚きだろう。どこか、目のやり場に困っているようにも見受けられる。

お互い、それぞれのチームに戻ろうという時、川道が不意に渡辺に近づいて耳元で囁いた。

「なぁ、お姉ちゃん監督ってどんな感じ?」
「?」

渡辺が振りむくと、川道がニヤニヤと、頬のこけた顔に笑みを浮かべている。渡辺はその顔にムッときた。

「バカにしよん?」
「いやいや、羨ましいやんけ。ウチなんか、あんな厳ついジジイやで。あー、俺も綺麗なお姉さんと野球したいわー」

言うだけ言って川道は踵を返し、その場を離れていった。渡辺はさらにカチンとくる。こいつらは浅海先生をただのマスコットか何かだとしか思ってない。見た目だけに気をとられて、何も分かってやしない。これまでの戦いぶりを見てれば、浅海先生の采配による勝ちもあったというのに。

「……絶対潰す」

夏に負けた先輩の無念を晴らす為。
そして浅海先生の価値をこいつらに認めさせる為。普段穏やかな渡辺は、珍しく燃えた。



スタ
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