Episode25:龍舜
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香と摩利の記憶の食い違いは、不自然なほどに大きい。確かに当時は気が動転して聞き間違えるということもあるだろう。だが、頭は時間と共に冷静になっていくものだ。その日から一年経った今、そこまで大きな記憶違いというのは、紗耶香の単なる思い込みか、それとも、『人為的な何か』か。
そこまで思考して、隼人は唐突に敵の大将の魔法を思い出した。
『意識干渉型系統外魔法邪眼』。
催眠効果を持つパターンの光信号を高速で明滅させ、相手の網膜に投射する光波振動系魔法。
恐らくそれを使えば、その時ショックを受けていた紗耶香に、今彼女が告白したような記憶にすり替えることは可能なはずだ。
だとしたら、その男----司一は、隼人の最も忌み嫌う人種の一人だ。思わず、拳を強く握り締める。
「じゃあ……あたしの誤解…だったんですか…?」
紗耶香の呆然とした呟きで、隼人の意識は現実に引き戻される。
「なんだ、あたし、バカみたい……
勝手に、先輩のこと誤解して…自分のこと、貶めて……
逆恨みで、一年間も無駄にして…」
紗耶香は今、物凄く後悔しているのだろう。きっと彼女は心の中で、自分のことを罵っているに違いない。
そんな彼女に、誰も何も言えず、沈黙が流れた。
「無駄ではないと、思います」
その沈黙を破ったのは、達也だった。
「……司波君?」
紗耶香が顔を上げた。縋り付くような彼女の瞳をまっすぐに捉えて、達也は言葉を続けた。
「エリカが先輩の技を見て、言っていました。
エリカの知る壬生先輩の、中学の大会で準優勝した『剣道小町』の剣技とは別人のように強くなっていると。
恨み、憎しみで身につけた強さは、確かに、悲しい強さかもしれません。ですがそれは、紛れもなく、壬生先輩が自分の手で高めた先輩の剣です。
恨みに凝り固まるでなく、嘆きに溺れるでなく、己自身を磨き高めた先輩の一年が、無駄であったはずはないと思います」
達也の語るそれを、隼人は自分のことのように聞いていた。その目は暗く、黒く、光を映さない。
「強くなるきっかけなんて様々です。
努力する理由なんて千や万では数え切れないでしょう。
その努力を、その時間を、その成果を否定してしまった時にこそ、努力に費やした日々が本当に無駄になってしまうのではないでしょうか」
「司波君…」
達也を見上げる紗耶香の瞳からは大粒の涙が途絶えることなく流れ続けている。
「司波君、一つだけ、お願いがあるんだけど」
「なんでしょう」
「もう少し、こっちに来てくれないかな?」
「こう、ですか?」
「もう一歩」
「はぁ」
雰囲気が変わり、和やかな空気が流れた。
だがそれは、
「じゃあお願い」
すぐに、
「そのまま
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