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万華鏡
第六十三話 第三試合その十
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「まさかと思うけれど風向き変えたりしないよな」
「流石にね」
「それはないか」
「ええ、ないから」
 里香は美優にそれはないからと言って安心させた。
 そうこう話している間にも試合は進む、先頭打者が四球で出た。しかしこのことにも五人はもう楽観はしなかった。
「二塁に進めないから」
「辛いのよね」
「ここでホームラン出たら同点だけれど」
「一本でいいのに」
 しかしだ、その一本すらなのだ。
「長打の一本も出ないし」
「本当に二塁まで進めないから」
「どうしたものかしら」
「困るよなあ」
「一本でも」
 五人共もここで、とは思っていた。しかし楽観出来なかったのは今もだ。
 そうこう言って観ていく、すると。
 次のバッターが思わないことをしてくれた、何とだ、
 センターオーバーの長打だ、風に乗った形だ。
 ボールは勢いよく飛びフェンスに直撃した、だが。
 勢いが強過ぎた、四球で出たランナーは。
 三塁で止まってしまった、センターの送球がホームへの突入を許さなかった。だがこの長打でだった。阪神は。
 無死二、三塁だ。この状況に五人も目を輝かせる。それで美優は今度は明るい顔で仲間達にこう問うたのだった。
「いけるんじゃね?」
「うん、ひょっとしたらね」
「いけるかもね」
 景子と彩夏がその美優に答える。
「ノーアウト二塁三塁」
「これいいわよ」
「この状況ならね」
「若しかしたら」
 まだ楽観出来ない、それでもだった。
 今の状況についてはだ、こう言えた。
「一点は入るかもね」
「犠牲フライで一点だから」
「ゲッツーにもならないし」
「いい状況よね」
「ここでね」
 里香もだ、ごくりと固唾を飲んでから述べた。
「二点入れば」
「同点よね」
「試合が振り出しに戻るわよね」
「それで」
「ええ、スクイズでもね」
 これでもいいというのだ。
「一点入るだけで違うわ」
「じゃあ次はそれ?」
「スクイズ?」
「それで一点?」
「この人パンチ力はないから」
 今のバッターを観ての言葉だ、このバッターはホームランを打つことは少ない。三振こそ少ないがそれでも長打力は期待さえrていない。
 だからだ、里香も言うのだ。
「多分ね」
「スクイズ?」
「それ?」
「バントが上手な人だから」
 それでだというのだ、だが。  
 ここでロッテナインはマウンドに上がり話に入っていた、監督とピッチングコーチも来ての話だった。そのうえで。
 ロッテ内野陣は前進守備になった、それを観てだった。
 里香は顔を曇らせてだ、こう四人に言った。
「向こうも警戒してるわね」
「ロッテの方もね」
「わかってるんだな」
 琴乃と美優が応える。
「そうしたことは」
「ちゃんとなんだな」

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