第六十三話 第三試合その六
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「好きにはなれないけれど」
「それでもだよな」
「第三戦が重要なのは確かよ」
こう話すのだった。
「そこで勝てるかどうか」
「それで主導権を握られるんだな」
「そうなの」
それが第三戦だというのだ。
「天王山っていうかね」
「正念場なんだな」
「そう、先に連敗していても第三戦で勝って勢いを取り戻したチームも多いし」
「ああ、カープとかな」
広島東洋カープだ、残念ながらシリーズから遠ざかって久しい。
「あそこ近鉄とのシリーズで」
「そう、昭和五十四年も五十五年もね」
二年続けてだった、その流れは。
「カープ三戦目で勝ってそこからだったから」
「五十四年が確か」
ここで景子が言う。
「あれよね、二十一球jよね」
「江夏さんのね」
「若し江夏さんが阪神にいたままだと」
どうなっていたのか、景子は言う。
「ストッパーにはなってないわよね」
「多分ね」
里香も考える顔で答えた。
「そうなっていたらね」
「そうよね、やっぱり」
「ええ、江夏さんは南海にトレードで入ってストッパーになったから」
野村にそれを勧められたのだ、その野村が後に阪神の監督になるということにも野球の面白さがあると言えよう。
「だからね」
「阪神ではやっぱり」
「ずっと先発だったと思うわ」
「それでシリーズでもあんな場面は」
「なかったわ」
それもだというのだ。
「やっぱり多分だけれど」
「そうなのね」
「だから若しもよ」
ここでも仮定のうえで話す里香だった。
「江夏さんが広島にいなかったら近鉄は日本一になっていたわ」
「あの二十一球の時に」
「だってあの場面は江夏さんじゃないと乗り切れないから」
江夏だけの心臓があるピッチャーでなければ潰れている場面だったというのだ。日本シリーズ第七戦九回裏、一点リードで無死満塁だ。この状況は普通のピッチャーならば確実に潰れている場面である。そのプレッシャーに。
「実際江夏さんも辛かったっていうし」
「あの人の一世一代の場面よね」
「だからね」
まさにだ、江夏でなければだというのだ。
「あそこで負けなかったのがね」
「江夏さんなのね」
「あの人だけよ」
まさにだ、江夏だけだというのだ。
「あそこを凌げたのは」
「あれよね、確か」
ここで景子は右利きだが左腕を投げる仕草をしつつ話した。
「カーブを投げる時に」
「そう、相手がスクイズをしてきてね」
近鉄のバッターは石渡茂だった、一死満塁での場面だ。
「その時にだったのよ」
「相手がスクイズをしてきたのをその目で見て」
「カーブを投げるその瞬間にね」
「外したのよね」
「そうだったのよ」
ウエストボールを投げたのである。
「これだけでも信じられないけれど」
「そ
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