十幕 Lost Innocence
5幕
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泥、だ。白金に輝きながら浮き上がっていった〈道標〉の集合体は、双月の内、小月と重なり、大月を泥で冒していく。
冒された大月は闇色の一つ目から泥の涙を落とす。泥の涙は球体を成していく。
薄く光る球体の中には禍々しい胎児が丸まっていた。
「あれが……カナンの地?」
「……なんて言わねえよな」
「いや。そのまさかだ。――オリジンめ、あんなところに隠していたとは」
見上げるミラが悔しげに唇を噛みしめ、拳を握った。
「場所は分かりましたが、どうやってあそこに?」
『ミュゼに撃ち落としてもらえば〜』
「か弱い乙女に何てことを」
「空中戦艦なら!」
皆が口々に上げる意見を、一刀両断する声が頭上から届いた。
「無駄だ。近づくだけでは中へは入れん」
空中にクロノスがいた。人を睥睨するまなざしは初めて見た日と変わらず。しかも片方の手には、ボロ布かのようにユリウスを掴んでぶら下げていた。
「まさか〈道標〉を揃えるとは。探索者の相手をしている場合ではなかったな」
言うや、クロノスはどこまでも無造作に、掴んでいたユリウスを放り投げた。
フェイはとっさに風を起こし、ユリウスの落下の衝撃を和らげた。そこにルドガーが滑り込み、ユリウスの体を辛うじて受け止めた。
「ユリウス! しっかり!」
ルドガーが駆けつけてユリウスを抱え起こす。エリーゼが行ってすぐユリウスのケガを治癒し始めた。そして彼らを庇って、ジュードがグローブを着けた両腕を構えてクロノスの前に立った。
「分史世界を増やしていたのは、あなたではなかったんですね」
「我は巫子クルスニクとその徒党に骸殻を与えただけ。時歪の因子化とは、奴らが我欲に溺れ、力を使い果たした姿だ」
はっとする。エルの背中を塗り潰した黒い痕。父を痛みに叫ばせるほどの禍々しい黒煙。
あれは全てこの精霊が人間に与えた痛みと呪い。
(よくも――! お姉ちゃんを、パパたちを!)
久しい感覚。感情が制御を失い、精霊術となって表出する。
クロノスの直下に紫電の巨大剣が出現した。雷剣が紫電のドームを広げてクロノスを捕え、雷撃を見舞う。だがクロノスは雷撃をあっさり避けた。空間を転移したのだ。
「空間……じゃない、空間と時間、両方だよ!」
「時空の大精霊か――厄介だな」
「でも俺たちが下がるわけにはいかない」
ルドガーの声は決然としていた。ルドガーはエリーゼとアルヴィンにユリウスを託すと、ガイアスとミラに並んで双剣を抜いた。
「行くぞ!」
ガイアスの号令一下、ミラとルドガーが駆けた
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