彼は一人、矛盾の狭間にて
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そうさな、俺が桃香の立場なら……愛紗だけは間違いなく払う。主の為に動く忠臣たる彼女を支払う。無言の信頼を瞳に乗せてその背を送り出す。愛紗は……主の為にと辛い役を引き受けられる、汚名を被る事が出来る曲がらない芯の通った人だから」
切り捨てられたなら、これから自分が行うであろう選択を愛紗もすると、秋斗はそう言っている。
意見が衝突することの多い二人であるのに、そこまでお互いへの信頼が高かった事に雛里は驚愕していた。
「きっと曹操に絆されずに愛紗は遣り切るだろう。愛紗は自身の基準線を間違えない稀有な存在なんだ。だからこそ、俺は愛紗を送り出す。戦う事があったとしても最後には俺達の元に帰ってくるだろうと信じて、何も言わずに信頼を瞳に乗せて伝える」
寄り掛かっていた身体を引き上げ、ふっと息を付いた秋斗は遠くを見据えた。既に交渉が行われているなら、もしかしたら愛紗が求められているかもしれないと考えながら。
雛里は急に身体を離されて……寂しさが湧いた為に温もりを求めようと秋斗にくっついた。少しだけ、彼と瞳を合わせられるよう顔を上げて。
合わさった黒と翡翠。交差するのは想い、交錯するのは思考であった。
雛里は昔と同じように悔いた。秋斗の事を見抜けていなかったと。彼を王として立てるか……もしくは黄巾の終わり、城壁の上で相対していた曹操の元に行かせる事が出来ていればと。
無言の信頼ほど臣下にとってありがたいモノは無い。言わなければ伝わらない事がほとんどであるが、絆が強ければ強い程にそれは生きてくる。現に徐晃隊はその代名詞と言っていいほどに育ったのだから。劉備軍内部に於いて、既に一つの軍として確立させる事が出来ていたと言ってよかった。
不安と後悔が渦巻く雛里の瞳を受けて……すっと、秋斗は雛里の額に口付けを落とした。心配いらないというように、自分を信じてくれと言うように、仲間を信じてやれと言うように。
「あわわぁ……」
頬を朱に染めた雛里は口付けを落とされた箇所を抑えて、秋斗から身体を離して蹲る。その愛らしさに苦笑して、秋斗は彼女の頭を撫でた。
しばしの無言、恥ずかしさと嬉しさを誤魔化す為に大きく息を付いた雛里は、グッと拳を握ってある決意を固めた。
「徐晃隊の願いを……聞きました」
ポツリと零された言葉に秋斗の腕はピクリと跳ねる。心に来る痛みから、皆との楽しい日々を思い出して。
「あなたの元で戦えたらそれだけで幸せとおっしゃってました。どんなカタチであろうと秋斗さんが平穏な世を作り出して、平穏に暮らしてくれるならそれでいい……と」
――例え所属する軍を変えても。あなたが好きなように生きてくれるなら、彼らはそれでいいんです。
秋斗が桃香の元を離れない理由が分からないから、大きく広げてその想
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