彼は一人、矛盾の狭間にて
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った。無駄死にだ。殺人者。人殺し。偽善者。お前のせいだ。オレはなんのために。許してなどやるモノか……絡みついてくる数多の声は頭から離れるはずが無かった。
そして最後に……それらに耐えられなくて泣き笑いの顔を横に向けた事で……彼女の存在に気付いてしまった。
愛しい彼女は泣いていた。幾多も涙を零していた。哀しくて、辛くて、苦しくて。
だから……夢で見たあの声が重なっていく。
現実の声は聞こえず、白昼夢の声が彼の耳に響き渡る。たった一つ、彼を壊すには十分な言葉が突きつけられる。
『うそつき』
ドクンと心臓が跳ね、責めるように鼓動が速くなった。走る痛みは胸を握りしめても収まる事は無く、呼吸を紡ごうとしてもどうやってそれをしていたか思い出せない。
「あぁ……許してくれ……俺は……お前に……」
震えながら雛里に顔を向けて、引き絞るように小さな声が零れる。
「あなたは間違ってない! 自分を見失わないでっ!」
「うそつきな俺は……異物な俺は……世界の、不純物な俺は……ずっとお前を……泣かせる事、しか……出来ないんだ……ごめん……許してくれ」
雛里の叫びは……秋斗の耳には届いていなかった。どれだけ隣にいようとも、それが彼を追い詰めて行く。何がなんでも自分から救いたいと願ったモノを、矛盾の袋小路に巻き込んでしまった罪過が重く圧し掛かり続ける。彼女をこれからも巻き込み続けなければならないという自責が、彼の心を容易く切り刻んで行く。
理の外から齎された矛盾は先の世を想えば誰にも話す事が出来ず、彼の思考を縛り付け、逃げ道を全て塞いでしまった。雛里でさえ、彼を本当の意味で助ける事は出来ない。どれだけ想おうとも、どれだけ支えようとも。
「違いますっ! 私はあなたがいればいい! それだけでいいです! だからもう自分を責めないで! もう自分を傷つけないで! 秋斗さんっ!」
「俺には、これしかないんだ……俺は……引き摺りこむ事しか出来ないんだ……すまない……ごめん……許してくれ……」
誰も何も言えるはずが無かった。彼と彼女に踏み込む事など出来はしなかった。
雛里の胸には絶望が来る。壊れるかもしれないと予測していながらも、どこか安穏と構えていたのだ。彼がいつも強い姿を見せていて、自分が支えていると慢心しており、彼がいつも頼ってくれたから……自分がいれば耐えてくれると油断していた。
傍に居る自分の事を認識さえしないとは……夢にも思わなかった。
「ああ……うあぁ! ……ぐっ、かはっ」
ゴトリと、彼の頭が地に落ちた。
頭を抱えて震えていた秋斗は、苦しげな声を上げた後に糸が切れた人形のように動かなくなった。
何度も、何度も、彼女は彼の名を呼んだ。
何度も、何度も、彼女
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