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乱世の確率事象改変
彼は一人、矛盾の狭間にて
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信じてくれるからこそ壊れずにいた。
 限定された情報は彼の思考を追い遣っていく。
 例え一時的に敵になろうとも、彼がいつまでも桃香の仲間であると信じ抜いてくれなかった、桃香の為に全てを捧げているのだと信じてくれなかった、と。
 同時に、桃香が自分の描く世界を作り出せない事を理解してしまった。矛盾の狭間で踊り続ける哀れな道化になるしかないと気付いてしまった。

――俺が敵になるはずないじゃないか。

 ゆっくりと、彼は頭を上げた。自身は無表情のまま、絶望に暮れる桃香を見つめて……涙を一つ零した。

――これだけ追い詰められてもお前は切り捨てられないのか。

 慄く唇を噛みしめて、その隙間から震える吐息を吐きだした。

――お前は同盟という擬似的な平和を選び続けるのか。

 ギシギシと心が悲鳴を上げ、頭の内に優しい三人の少女のおかげで呑み込めたはずの怨嗟の声が溢れ返っていく。

――俺の描く世界は、殺した奴等に誓った世界は、死なせたあいつらに望まれた世界は……手に入らないのか。

 彼は何も言わず、抜け殻のように桃香を見つめ続ける。
 後ろで春蘭と桂花はその姿に同情の視線を投げていた。主からの信を得られない事がどれほど苦しく辛いモノであるのかを思って。

――俺はこんな大きな矛盾を背負わないとダメなのか。もう、俺が代わりに『劉備』になる事は出来ない。だから……桃香の描く未来を作るしかないんだ。矛盾のままに、嘘を付き続けて、俺と同じ未来を描く曹操を否定して。

 ふいに莫大な痛みが頭に走り、秋斗はその身体を曲げた。

「秋斗さんっ!」

 堪らず、雛里は彼の元に駆け寄った。それが今の彼にとって一番残酷な事だと知らずに。
 頭に溢れる怨嗟の声は多く、彼を昏い白昼夢へと追い込んで行った。

 今まで殺してきたモノの目が見つめる。数え切れない人々の絶望を湛えたそれが一斉に彼を責め立てた。

 華雄の怨嗟に染まり切った声が聴こえる。偽善者徐晃、お前が作る世界は誰も望んでいない、と。

 呂布の悲哀と憎悪に染まる瞳に射抜かれる。お前の想いは誰も繋がないから殺す価値も無い、と。

 月が膝を折って泣き始める。あなたの作る世界に私は生きていたくない、と。

 詠に泣き怒りの表情で睨みつけられる。あんたは結局誰も助けてくれなかった、と。

 白蓮が壊れそうな瞳で見据えてくる。秋斗が居てくれたら私達は幽州で幸せに暮らせていたのに、と。

 牡丹が涙を零しながら詰め寄ってくる。未来を知っているのなら……どうして私達を助けてくれなかったんですか、と。

 徐晃隊の面々があらんばかりの怒りを向けて秋斗に迫りくる。御大将、俺達はあんたの描く世界の為に戦っていたのに無駄死にだ、と。

 全て無駄にな
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