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乱世の確率事象改変
彼は一人、矛盾の狭間にて
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んとする軍師。
 凍てつく瞳に射抜かれて……朱里の身体は震えはじめる。初めて見る親友の冷たい姿は彼女に恐怖を与えていた。 
 この場で答えないというのは肯定に等しく、雛里は興味を失ったかのようにすっと目を伏せて華琳の方を向いた。

「曹操様、教えて頂けますか? 我が主は何を対価に支払いましたか?」

 愛らしいはずの声は劉備軍の三人に冷たく突き刺さった。
 雛里は桃香も愛紗も朱里も直ぐに答えてくれないかもしれないと考え、彼の体調を思って迅速にこの場を終わらせる為に華琳へと問いかけただけなのだが、桃香達にとって雛里が仲間では無いような感覚に突き落とす。
 静かに、目を閉じて微笑んでいた華琳はゆっくりと目を開いて秋斗を見据えて答える。

「問いかけられたのだから私が答えましょう。劉備の支払った対価は平定した後の益州と荊州よ。私が先に提示した対価である徐公明と公孫賛の身柄に納得しなかったから……黄巾のよしみで引き下げてあげたのよ」

 愕然。雛里はどちらも予測していたとはいえ、心のどこかでは桃香が秋斗と同じように切り捨てるだろうと思っていた為に絶望に堕ちる。
 そして秋斗は……バッと顔を上げて桃香を見やった。本当なのかと、そう問いかけるように。
 彼の目に映るのは、曹操に何か言い返そうとするも口を噤み、悲哀と困惑の綯い交ぜになった桃香の瞳。それが教える事柄は肯定であった。
 しかし……彼は受け入れられない。受け入れられるはずが無かった。この場にいる誰よりも桃香の事を信じていたのだから……例えそれが歪んだカタチであろうとも。

「クク、ははは。ご冗談を。本当に曹操殿は戯れがお好きですね。ホットケーキでも持って来たら真実を教えてくれるんでしょうか?」

 ふるふると首を振って俯き、乾いた笑い声を上げて、楽しそうに話しかけた。
 雛里はぎゅっと拳を握りしめ、どうにか涙を零さないように耐えていた。他人から真実を告げられて、現実を受け入れて、その後にこそ彼が救われるのだと信じて。

「劉備様が納得しないわけがないんですよ。だって……白蓮を切り捨てたんだ。大切な友を、俺と同じように諦観したんだ。今更将の一人や二人を切り捨てる事が出来ないわけないでしょう? 理想の世界を作るための犠牲に俺達を含まないはずないんです」
「……現実を受け止め、思考を巡らせなさい。もう一度だけ言ってあげる。私が求めたのはお前と公孫賛だけ。二人の身柄だけで全てを救おうと言ったのよ。劉備はそれを選ばなかった。理想と現実のどちらを選んだのか……お前ならば理解出来るでしょう?」

 ビシリと、秋斗の心にヒビが入る。
 彼の心は桃香を信じる事で保っていた。桃香が劉備であるからこそ、世界を変えるには彼女が必要だからこそ耐えていた。そして……彼女達が嘘つきな自分を
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