第一部 学園都市篇
第1章 虚空爆破事件
18.July・Night:『The Planet Wind』
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髪の男は、ホテルの一室でそれを待ち侘びていた。安いホテルらしく窮屈な浴槽に身を収め、サングラスのまま頭上からのシャワーを浴びながら。
そこに、開け放していた窓から一陣の風が吹いた。
「……帰ったか、放蕩娘」
「だっ、誰が放蕩娘だよ、伯父貴!」
頭から熱湯を浴びながらの軽口に、もうもうと立ち込める湯気。それを背景に、壮年の男性は湯船から身を起こす。
「俺の命令に逆らう奴ァ、全部が放蕩子だ。タイタスと言い、テメェと言い……また勝手に魔導書に関わりやがって。口で糞吐かされねぇとわからねぇか?」
浅黒く、筋骨隆々のその体躯。間違いなく西洋の血のもたらす恩恵には、しかし弛まぬ修練の跡が見える。
それに娘は、目に見えて焦りだした。まるで、苦手な上司に成果の報告をする時のように。
「うっ……で、でもさ、伯父貴! ボク、『妖蛆の秘密』の頁を一枚、手に入れてきたんだよ?」
「ほぉ、『妖蛆の秘密』ねぇ……」
差し出された頁を、毟るように手にした彼。そして――
「ハッ、『遼丹』の製造法……下らねぇ」
「ああ〜〜っ!? な、何すんだよ伯父貴! 折角、手に入れた永遠の命を!」
シャワーに浸して破り捨てた『永遠の命を与える』とか言う中国の神仙の秘術の滅びを目の当たりにしながら、彼は――――
「で、『妖蛆の秘密』の持ち主を殺さなかったのはなんでだ、放蕩娘?」
「え――――?」
そこで、生まれて初めての問いを受けた。彼女は、一連の自らの坑道を思い返す。そうして、初めて『遺物』の存在に気付いたのだ。
「いや、おかしいよ……だって、そんなの――――アイツ?!」
そう、あり得ない。敵と、一度断じた相手を見過ごすなど。
その事実に気付いた瞬間、彼女は『狩人』の顔を取り戻した。
「――――――狩る、次は、必ず」
本来のあり方を取り戻した彼女には、最早悪鬼の表情をもって。
「次こそ、次こそは!」
口惜しそうにそう呟いた彼女を、男性の苦笑いと宵の闇が包んでいた。
………………
…………
……
客の無い店内で、男性はコーヒーカップを磨いていた。
しっとりとしたブルースを奏でる年代物の金色の蓄音機、ブラインドの降りた窓からは銀色の月影が投げ掛けられている。
「……さて、今日はそろそろ店じまいですかね」
男性がそう口にした、その刹那。勢いよく扉が開いて、人影が飛び込んで来る。
それを驚きの欠片すら見せず、男性はニヒルな笑顔で彼を迎え入れた。
「やぁ、コウジくん。今日も良い豆が入ってますよ」
「ハアッ、ハアッ……ニアル、さん……」
此処
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