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春から秋に
第二章

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第二章

「今年もやってるね」
「ああ、やってるよ」
「頑張ってますよ」
 今は畑にいながらだ。その人の言葉に応える二人だった。
「春になれば本当にな」
「忙しくなりますよ」
「ははは、お互いにな」
 そうだとだ。その人も応える。
「けれどこれでな」
「今年も飯が食える」
「お米が」
「だよな。わし等が頑張らんとな」
「じゃああんたは苺をな」
「そっちを頑張って下さいね」
「気張るよ」
 その人は笑顔でこうも言った。
「明るく楽しくな」
「そうそう、明るく楽しく」
「今年もやらないと」
「わしもそろそろ田に植えるか」
 この人もだ。田を植えるというのだ。
「水は入れたしな」
「何だ、まだか?」
「まだ植えてなかったんですか」
「いや、植えるつもりだったけれどさ」
 それでもだというのだ。
「色々あってなあ」
「花の用意かい」
「そうそう、そっちがね」
「花の栽培も大変なんだな」
「結構以上に大変だよ」
 中年の彼は笑いながら話す。
「種を撒くのも。それでそれからもな」
「虫かい」
「それが一番辛いよ」
 笑いながらだ。お爺さんに話すのである。
「もう幾らでも出て来るからな」
「そうだよな。花には虫がよくつくからな」
「可愛い女の子と同じだよ」
 お爺さんにこんなことも話した。
「可愛い女の子には悪い虫がつきやすいだろ」
「ははは、そういえばそうだよな」
 お爺さんも車を動かしながら笑って話す。
「婆さんにはわしがついたしな」
「嫌ですよ、お爺さん」
 お婆さんはお爺さんの今の言葉には顔を崩して笑った。
「私が花だったなんて」
「いやいや、そうだったよ」
「それでお爺さんはですか」
「ああ、悪い虫だった」
 自分でだ。こう言うお爺さんだった。
「そうして婆さんを不幸にしたんだからな。悪い虫だよ」
「またそんなことを言って」
「花に来るのは悪い虫だけじゃないさ」
 花を栽培しているその人はこのこともだ。お爺さんとお婆さんに話した。
「まずは汚い言葉から言うと」
「汚い言葉から」
「それからだとですか」
「糞には糞蝿がたかって」
 確かに汚い言葉ではある。だがその通りだ。
「花には蝶が集るんだよ」
「花には蝶ですか」
「そう。お婆さんは花だから」
 それではだ。お爺さんはというとだった。
「まあそういうことでね」
「ははは、わしが蝶か」
 お爺さんはその例えを聞いてさらに笑った。そのうえでの言葉だった。
「また言うねえ」
「いやいや、お爺さんは実際にとてもいい人だから」
「だといいのじゃがのう」
「まあとにかくな」
 花を栽培している人はここでまた言う。

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