第十四話〜英傑集結・前〜
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理と利で行動する軍師という生き物には、残念ながら理解はされても正論で叩き潰され制圧される。
「ここで名を挙げることは確かに重要だ。『ゆくゆく』のためにな。しかしそれは君主でなくて良いのだ。突き詰めて言えば、孫呉が精兵であることを示せればそれで良い」
「むー…」
年甲斐もなく、年端のいかぬ童のように頬を膨らませる雪蓮。彼女とて頭は―莫迦であるが―悪くない。理屈として理解している。ただ理性より本能を優先させる故に莫迦扱いを受けるのだが…
「それにここであたら力を晒す必要はない。失うなどもってのほか。それくらい貴女も分かっているでしょう、雪蓮」
「後方から軍勢が来たわよ」
二人の和やか(?)な会話は、報せを持ってきた焔によって遮られる。
焔の言葉に倣い、二人は後方へと視線を向ける。
「あれは………えっ!?ウソでしょっ!?」
その華美な旗印は見紛うはずもない、現在の『主』である袁術のものだった。別に袁術軍が後方にいることが問題なのではない。しかし…
「…これは、まずいな」
冥琳は憎々しげに表情をゆがめる。彼女の懸念は当然だった。
「よもや袁術軍がこれだけの行軍速度を有しているとは…」
そう、そこなのだ。
昨日までは、周辺には軍勢はいなかった。それが今になって追いつくということは、昨日から今日にかけて、こちらを上回る行軍速度を保っているということ。
行軍は戦わずしてその軍を知ることが出来る手段と言っても良い。何故ならば、そこには規律をどれだ重んじているのか、統率がどれだけ取れているのか、指揮官の力量がどれだけかが凝縮されているからだ。
彼女たちの知る限り、袁術軍には今挙げた要素の全てが欠けているはずだが、現在目にしている軍勢の行軍は堂々としており、とても『あの』袁術軍とは思えなかった。
「紀霊…いや彼でもこれは無理だろう。袁術・張勲など尚更だ」
孫家に属している冥琳でも認める紀霊ですら、ここまで整然とした行軍は無理だ。
「一体誰が…」
いずれ矛を交わす運命にある敵軍を見て、冥琳の表情はより一層険しくなった。今までの認識を改め、新たな策を構築する必要性に迫られた冥琳の意識は最早眼前にはなく、思考の海へと旅立っていた。また雪蓮も珍しいものを見たと言わんばかりに凝視している。だからか…
「………」
酷く冷たい視線を袁術軍に向ける宿将にして忠臣の存在に、この場の誰一人として気付かなかった。
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