58話「幼き日の色」
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「えー、ごほん。それでは、アッシュの準決勝進出を祝って! 乾杯!」
Cheers!
グラスの当たる涼やかな音と共に、一行の笑顔がはじけた。
「それにしても、大した怪我が無くて良かったわ。ま、アッシュのことだし、どうせ心配するだけ無駄な労力だったかしら」
「ふふ。ロボさんが獣化した時に血相変えて叫んでいたの、誰でしたっけ?」
「ちょ、クオリ!! わ、私は明日の準決に支障を来したら大変だから、それがちょっと気になっただけで、だから、私は――!」
「はいはい。そういうことにしておきましょうか」
「クオリぃ〜!」
いつになく情けない声で叫ぶユーゼリア。その頬が赤いのは、果たして手に持っている蜂蜜酒の力だけか、否か。
甘味の強い酒をちびちび口に入れていた銀髪の少女は、今日一番の功労者と目が合わないよう音を立ててグラスを置くや、その白い腕をすっとあげてボーイを呼んだ。
「ハニーエールをジョッキでもう1杯、あとアボカドとツナのチーズ焼きと、イカとネギのバター醤油炒めと、手羽先のピリ辛照り焼き!」
「……そんなに食えるのか」
「いーの! 余ったら手伝ってもらうから!」
グイッと残りの酒を飲み干して、だんだん据わってきた目でアシュレイをにらむ。
誰に、なんて尋ねても詮無きことだろう。言わずもがな、この場合手伝って“あげる”人物は、彼の他にない。
追加オーダーを出した時点ですでに6人掛けテーブル一杯に乗っている料理を見下ろして、アシュレイは恨めし気にクオリを見た。日頃の優雅さをどこへ追いやったとばかりにガツガツとかきこむユーゼリアへ、「沢山食べますねぇ、お金は大丈夫ですか?」などと呑気に聞いている。白々しい。
「そういえばアッシュさん、腕は治りましたか?」
「…ああ、もう完璧。他の傷も完全に塞がってるし、流石に一流の魔道士を置いているものだな」
【狼王】の名を戴くAランカー、ロボ・グレイハーゲンとの戦いで負った一番の重傷が右腕に走った10pほどの裂傷だったのだが、試合から4時間経った今ではすっかり治ってしまっていた。身体中についた細かい傷も完治している。
「ふふー、お医者さまびっくりしてたわよねぇ。『【おおかみおう】とたたかってこれだけの傷ですんだなんて!』って!」
だいぶ酔いが回ってきたユーゼリアが、その鈴の鳴るような声を精一杯低くして真似をする。全然似てはいないが、クオリが便乗しておだてたのが功を奏したというべきか、どんどん饒舌になっていった。
今彼らが席についているのと同じようなテーブルが20個近く、加えてカウンター席まで客で一杯になった料理店では、ひっきりなしに笑い声、怒鳴り声、ガラスの鳴る音や、酔っぱらいの歌であふれる。この時期の話題は武闘
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