第六章
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第六章
「前座だからな」
「前座、噛ませですけれど」
「確かに負けてばかりだけれどな」
それでもだというのだ。
「それでもそれに徹していくさ」
「噛ませで、ですか」
「ああ。それが必要だしな。それにな」
「それに?」
「そんな俺だから応援してくれるファンもいるからな」
これもあってというのだ。
「前座だからな」
「前座だからですか」
「俺が負けるといつも声があがるだろ」
「はい」
プロレス独特のだ。負けたことに対してだ。
「あれがあるからな。そうしたファンの為にもな」
「負け続けていくんですか」
「そうするさ。だから俺は最高の噛ませ犬になるさ」
「最高の、ですか」
「ああ、なるさ」
これが新条の言葉だった。
「俺は最高の噛ませ犬になるさ」
「ううん、最高のですか」
「そのつもりさ。それもまた必要だからな」
こう言う新条にだ。兆州はどうにも賛同しかねていた。やはり噛ませ犬は噛ませ犬ではないかと思ったからだ。それでどうしてもそれはできなかった。
しかしだ。ここで、だった。その新条のところにだ。
若い大学生と思える面々が来てだ。そのうえでだった。
「あっ、タイガー新条だよな」
「それと兆州理木だよな」
「その通りさ」
「俺が兆州だよ」
二人はそれぞれ自分のところに来た彼等に答えた。見れば五人いる。
その五人がだ。笑顔でこう言ってきたのだ。
「なあ、よかったらだけれどさ」
「握手してくれるかな」
「それとよかったらサインもな」
「俺達あんた達のファンなんだ」
兆州とだ。新条に対しての言葉だった。
「だからいいか?」
「あんた達さえよかったらだけれどな」
「そうしてもらえるかな」
「ああ、いいぜ」
「喜んでさせてくれよ」
二人は笑顔で応えた。そうしてだ。
彼等と握手をしてだ。それかである。
彼等が出してきたそれぞれの持ち物にサインをした。その二人のサインを受けてだ。
彼等は満面の笑顔になりだ。こう二人に言ってきた。
「有り難うな。家宝にするよ」
「少なくとも自慢になるぜ」
「俺のサインでもいいのかい?」
新条は喜ぶ彼等に気さくな笑みで問うた。
「俺は知っての通りな」
「いや、あんただからいいんだよ」
「兆州さんもそうだけれどさ」
「タイガー新条のだからいいんだよ」
「そのあんただからさ」
これが彼等の新条への言葉だった。
「だから宝にさせてもらうぜ」
「あんたのサインな」
「そうか。それは有り難いな」
そんな彼等の言葉を笑顔で受け取ってだ。新条は言った。そのうえでだ。
彼等が笑顔で店を出てからだ。こう兆州に言ったのである。
「やっぱりいいよな。ファンってな」
「そうですね。それでなんですけれど」
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