第一章
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人たらし
誰が言ってもだった、彼は出て来ようとしなかった。
島左近、天下に知られた兵法家でありその戦での強さは恐ろしいものがあった。だからこそ誰もが彼を召し抱えようとしたが。
誰が声をかけても隠棲している場所から出ない、これは天下人であり天下無双の人たらしである豊臣秀吉でも同じだった。
秀吉がどれだけの俸禄を出しても宝を付け加えても島は出て来ない。だがそうなれば余計に欲しくなるのが秀吉だ。
秀吉は弟である秀長、相談役である彼に大阪城において尋ねた。
「島を手に入れるにはどうすればよい」
「あの者ですか」
「そうじゃ、どれだけの石高を出してもな」
仕えようとしないというのだ、彼に。
「首を横に振らぬわ」
「宝もですな」
「茶器も刀も馬も出したわ」
無論他のものもだ。
「一生贅沢出来るだけの黄金もな」
「それでもですな」
「全く動かぬ」
出仕しようとしないのだ、島は。
「あの様な奴ははじめてじゃ」
「惜しいですな、あれだけの者が」
「うむ、豊臣に入ればな」
「大きな力となりますな」
秀長も言う、一介の百姓から天下人になった秀吉には親族は少なく譜代の家臣もいない、秀長もそこが秀吉の弱みと見ている。
それ故に島の様な家臣が少しでも欲しい、しかしなのだ。
島は首を縦に振らない、それで言うのだ。
「どうすればよいか」
「さて、どうしたものか」
さしもの秀長も難しい顔になり瞑目し腕を組む、いい考えが浮かばないというのだ。
しかしここでだ、二人の傍に控えていた若い者が言ってきた。石田三成である。
石田は澄み切った顔で秀吉に言って来た。
「ではここは」
「御主が行くというのか」
「はい」
そうするというのだ。
「お任せ頂ければ」
「出来るのかのう、御主に」
秀吉も石田の資質は見抜いている、だから彼を傍に置いているのだ。だが。
相手が相手だ、しかも石田はというと。
「御主はどうも硬い、柔らかさがないからのう」
「かの御仁を召し出すことはですか」
「出来ぬであろうな」
こう言うのだった。
「どうもな」
「いえ、それがしに考えがあります」
しかしだった、石田はその秀吉にこう返すのだった。
「ですからここは」
「佐吉に任せてよいか」
「はい」
石田は自分から言った。
「是非」
「ふむ。ではな」
秀吉はここまで聞いて一旦目を閉じた、そのうえで再び目を開きそのうえで石田に対してこう言ったのだった。
「見事島左近を召し出して参れ」
「それでは」
「召し出せなくともよい」
その場合は一切不問の処すというのだ。
「わしが何をしても駄目じゃった、それではな」
「左様でありますか」
「若し飯出せたら褒美は
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