第二章
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「あたしはこれでいいんだよ」
「長屋に住んでかい」
「ああ、博打で生きててね」
「恨みは買うなよ」
博打で勝つとそうなる、田宮はこのことも忠告した。
「いいな」
「そんな奴は片っ端からのしてるさ」
「馬鹿には言わせないんだな」
「そうさ、例えそいつが刀を持っていても」
おみよは確かな笑顔で言い切った。
「あたしには勝てないよ」
「柔術と剣術の免許皆伝は強いか」
「そのあたしに勝てる奴なんかいないよ」
それこそ一人もだというのだ。
「それを言っておくよ」
「そうかい、じゃあな」
「これからもだね」
「わし等の仕事になるようなことはするなよ」
このことを言うだけだった、今の田宮は。
「そこまではな」
「わかってるよ、人を殺めるのはあたしの流儀じゃないからね」
「幾ら馬鹿が来てもな」
「そうするよ、のしてやるだけさ」
「もっと言えば所帯を持って欲しいんだがな」
「言うねえ、あたしが所帯かい」
「そうだ、御前さんも女だからな」
それならとだ、田宮は蕎麦を勢いよくj食いながらおみよに言う。蕎麦を食う勢いは彼よりおみよの方がいいがだ。
「亭主を持てよ」
「こんな柄の悪い女の亭主になろうって奴がいるのかね」
「そういうのは見つけるものだろ」
田宮は笑って言うおみよにこう返した。
「そうだろ」
「自分でかい」
「町人はそういうものだろ」
武家は見合いで決める、しかし町人はというのだ。
「だから見つけたらどうだよ」
「あたしより強い奴だね」
「そんな奴いるか?」
田宮はこのことは真顔で問い返した。
「江戸に」
「いたら亭主にしてやるよ」
「やれやれだな、じゃあ所帯は持たないんだな」
「あはは、惚れた相手がいたら別だよ」
「じゃあ誰かに惚れろ」
「そんな相手がいたらね」
笑って返すおみよだった。
「そうなるよ」
「その相手が出ることを祈ってるからな」
田宮はおみよに話しながら蕎麦を食った、無論おみよもだ。とかくおみよの強さと気風のよさは江戸でもよく知られていた。それで彼女に声をかける者は多かったがそれは姐御だのそうしたものであり普通の女としてではなかった。
だがある日だ、やたら大きく重い煙管を吸いながら茶店で茶と団子を食いつつ店の縁側で道をぼうっと見ていると。
黒い着流しに総髷の男が通った、細い顔にはやや陰があり目の光は強く鋭い。唇は薄く横に一文字だ。
背は高くすらりとしている。腰には二本差しがある。
その彼を見てだ、おみよは目を見張って共にいる舎弟の一人籐次に問うた。
「あの旦那は誰だい?」
「旦那?あの黒い着流しのですかい」
「ああ、歌舞伎の色悪みたいだね」
「色悪ってあの旦那は違いますよ」
「色悪じゃないのかい」
「知りやせんか?
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