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女侠客
第一章
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                       女侠客
 おみよが何処から来たのかは誰も知らない、江戸で彼女を知らない者はいないがだ。
 気っ風がよく啖呵も切る、そして腕も立つ。
 それだけでなく背は高くはっきりとした顔の美人だ、細面に切れ長の如何にも気の強そうな目がある。仕事は所謂博徒だ。
 博打も強く負けたことがない、丁半も花札もだ。
 そんなおみよだから江戸でも有名だ、そのおみよに同心の田宮尚実が問うた。
 おみよは丁度店で蕎麦を食っていた、その向かい側の席に来て自分も蕎麦を頼んでからそのうえで問うたこととは。
「おめえさん一体何者でい」
「博打うちのおみよだよ」
 おみよは笑って田宮に顔を向けて答えた。
「それで充分だろ」
「いや、生まれも気になるしな」
 それにだというのだ。
「腕は立つし博打も強い、そこが気になるんだよ」
「そのことかい」
「そうさ、何処でそんな腕を身に着けたんだよ」
「そのことを言ってあんたに得があるのかい?」
「逆に言えばおめえさんに損があるのかい?」
 田宮も負けていない、笑って返す。
「そこは」
「そう言われるとね」
 ないとだ、おみよも笑って返した。
「ないね」
「そうだな、じゃあちょっと言ってくれるか」
「生まれは相模だよ」
 そこの生まれだというのだ。
「相模の商人の出だよ」
「おいおい、普通だな」
 田宮はここでヤクザ者の家と言うと思っていた、しかしそれが案外普通だったので驚いた顔でこう言った。
「商人の娘かい」
「そうだよ、ただ子供の頃からガラが悪くてね」
 それでだというのだ。
「武芸を習っていてそれが滅法性に合ってて」
「それでかい」
「剣術に柔術も身に着いてね、気付けば免許皆伝だよ」
「そりゃ凄いな」
「しかも店の客に博打を教えてもらってだよ」
 それもだというのだ。
「そっちも性に合っててね」
「それでやってるうちにか」
「喧嘩に博打ばかりしてるとね」
「親に勘当されたかい?」
「ああ、そうなって江戸に流れてきたんだよ」
 そうなったというのだ。
「小田原からここにね」
「成程な、あんたも色々あったんだな」
「そうなるね」
 おみよはこのことについては素っ気なく返した。
「今は長屋暮らしさ」
「博打で儲けてるのにか」
「銭はあってもね」
 それでもだというのだ、銭については。
「色々と消えてくからね」
「そういえば随分と人助けもしてるそうだな」
 一人身の老婆に銭をやったりしているのだ、おみよは困っている者を放ってはおけない性質なのである、
「それでかい」
「そうさ、銭は使うものだろ」
「そういうものかね、しかしな」
「長屋暮らしのことかい」
「辛くないんだな」
「あんないい場所はないさ」
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