第一章
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幸せという言葉は
ロバート=ハイネセンはカナダのモントリオールで高校の理科の先生をしている、その人柄はというと。
温厚にして円満、平等で誰にでも親切で優しい。彼を悪く言う人はいない。
大柄で樽の様な身体だ、金に黒が混ざった髪をギリシアの神々の様に波立たせて伸ばし髭も濃い。黒い瞳はいつも優しい光をたたえている。
その彼はだ、いつも生徒達に言うことはというと。
「幸せになりなさい」
「幸せにですか」
「なるんですか」
「人は生まれたならばです」
それならというのだ。
「必ずです」
「幸せにならないとですか」
「駄目なんですか」
「そうです。神はそう望まれています」
こう生徒達に言うのである、常に。
「ですから」
「僕達もですね」
「幸せにならないと駄目なんですね」
「この世に生まれたのならば」
必ずだというのだ。
「皆さんはその為にも学校に来ているのですから」
「じゃあ学校は」
「幸せになる方法を学ぶ為の場所です」
それがだ、学校だというのである。
「だからです」
「その為に僕達は勉強するんですか」
「そうだったんですね」
「学校の勉強もです」
幸せになる方法、それを見付ける為のものだというのだ。
「成績も大事だけれど」
「あれっ、じゃあ数学とか社会は」
「そうしたことは」
「学校は授業だけじゃない、世の中や人間を学ぶ場所だからね」
そうだからだというのだ。
「世の中や人間の中にあるね」
「幸せをですか」
「勉強する場所ですか」
「そうなんですね」
「そうだよ、だからね」
それでだとだ、ロバートは生徒達に優しい笑顔で話すのだった。
「皆幸せになるんだよ」
「人間ならですね」
「絶対に」
生徒達も彼の言葉に頷く、そしてだった。
ロバート自身も幸せになろうとしていた。彼はいつも前向きで日々を楽しく過ごしていた。だがそれでもだった。
彼はだ、職場の後輩のリチャード=ハズバーン、数学の教師である彼に首を傾げさせながらこんなことを言った。
「どうも最近」
「といいますと?」
「今一つ物足りないんだよ」
「じゃあハイネセン先生が仰る」
「うん、幸せだよね」
「それがですか」
「物足りなく感じるんだ」
職員室でだ、コーヒーを飲みながら教師のデスクワークをしつつ答える。
「どうにもね」
「傍から見ればハイネセン先生も」
「幸せだっていうんだね」
「健康でしかも仕事があっていい生徒達に慕われていて」
「うん、職員室の中でもね」
温厚で頼りがいのある牧師にも相応しい性格だ、だから彼は同僚達の間でも人気の的なのである。ただ独身である、結婚は忙しい為まだしていないのだ。彼女もいない。
「皆僕を好
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