10:店主の鑑
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『片面』を見限らないで、受け入れるっ!! ……あーもうっ、なんであたし、こんな簡単な事に気付かなかったんだろう!!」
最後にリズベットは鼻息をふんすっ、と荒く鳴らしてドカッとソファに座ったかと思えば、ぐびっと一口でコーヒーカップの半分を飲み下した。
それを見た、呆気からんとしていたマーブルは、
「……ふふっ、うふふふふっ。ホント、若いっていいわね〜……」
やがて心底可笑しそうに、そして嬉しそうに笑いに身を細かく揺らしながら、彼女の前にもシューの乗った皿を並べた。その傍らには鍛冶のハンマーを模ったデコレーションが。
「マーブルさんみたいな綺麗なお姉さんが言っても説得力ないです。でも……ありがとうございますっ。……おいしっ……」
クリームをたっぷり塗ったシューをパクリと頬張ったリズベットの顔に、笑顔が戻った。
「どういたしまして。……さぁ、あなた達もどうぞ」
俺とアスナの前にもカップと皿が並べられた。俺には……たぶん俺が片手剣を構えているシルエット、アスナにはKoBのギルドマークのデコレーションが飾られていた。
アスナは隣の二人の笑みを見て、ようやく安心した風に一息ついて、ニコニコとカップを手にしていた。俺とて、ここで頬の筋肉が緩むのを紛らわせるのは野暮というものだろう。
やっと俺も……そんな三人を見て、自然な笑みを浮かべることが出来た。
「事件と真剣に向き合うのは大事よ。だけど、さっきのあなた達みたいに、気が滅入るほど考え込むのはよくないと思うの」
最後に自分の分のカップを置いて椅子に座り、頬杖をついたマーブルは、各々喜ぶ俺達を満足そうに眺めて。
「だから、まずは今だけ……このひと時だけでも、目一杯楽しんで、心を安らいでいってくれると……私は嬉しい」
そう言って微笑む彼女の姿は、まさに憩いを求めてやって来る客を和ませる、宿の店主の鑑であった。
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