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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百十五話 大義と利
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ハイネセンから広域通信が入った。弛緩していた会議室の空気がたちまち引き締まった。スクリーンには壮年の軍人が映っている。
『ここに宣言する。宇宙歴七百九十六年一月三十日、自由惑星同盟愛国委員会は首都ハイネセンを実効支配の元に置いた。同盟憲章は廃止され愛国委員会の決定と指示が全ての法に優先する』

“見た事が有るな”という声が聞こえた、ブレツェリ准将だ。何人か頷いている人間も居る。“エベンス大佐じゃないか”という声が聞こえた。どうやら映っている人間はそれなりに有名らしい。
『同盟憲章に代わる新たな方針を発表する。一つ、銀河帝国打倒という崇高な目的に向かっての挙国一致体制の確立』

分かっていた事だが最初に和平を否定してきた。皆が総司令官代理を見たが総司令官代理は怒る事も無く黙ってスクリーンを見ている。
『二つ、フェザーンとの新たな外交関係の構築』
新たな外交関係の構築? 何だそれは? 独立ではないな、それならトリューニヒト議長が既に言っているから敢えて言う必要は無い、となると併合か?

考えている間にも方針の発表が続く。言論の統制、軍人への司法警察権付与、無期限の戒厳令布告、議会の停止、反戦、反軍部思想を持つ者の公職追放、恒星間輸送、通信の全面国営化、良心的兵役拒否の刑罰化、政治家及び公務員の汚職に対する刑罰の強化、有害な娯楽の追放、必要を超えた弱者救済の廃止……。

途中から総司令官代理がクスクス笑い始めた。発表が終わりスクリーンが切れてもクスクス笑っている。
「帝国はルドルフの亡霊から逃れようとしているのに同盟はその亡霊に執り付かれようとしている。亡霊はしぶといですね、お祓いが必要だな」

なるほど、確かにそうだな。愛国委員会がやろうとしている事はルドルフ・フォン・ゴールデンバウムが行った事と同じだ。皆も頷いている。それにしても総司令官代理は余裕が有る。またハイネセンから通信が入った。広域ではない、直接の様だ。おそらくは愛国委員会の決定に従えというのだろう。スクリーンにさっきの男が映った。

『自由惑星同盟愛国委員会、エベンス大佐である。ヴァレンシュタイン中将、貴官の総司令官代理の任を解く。以後各艦隊司令官は愛国委員会の指示に従うように』
随分と上から目線だな。会議室の中には不愉快そうな表情をしている人間も居る。しかし総司令官代理に反発している人間は如何思っているか。場合によっては軍が割れる可能性も有る……。

「条件次第では従っても良いですよ、エベンス大佐」
『……条件とは』
総司令官代理はニコニコしている。エベンス大佐は訝しげだ。
「愛国委員会の代表は誰です? 信頼出来る人物が代表なら私だけじゃない、皆も安心して指示に従うでしょう」
エベンス大佐の顔から表情が消えた。

『……委員会は合議によって
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