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乱世の確率事象改変
偽りの大徳
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何も答えず、己が提案を呑んでもらう為の我慢比べをする事。
 どちらも引かず、このままの状態が維持されるならば、彼女達の味方が増える。
 もし、諸葛亮が徐州内部の情報工作を行っているならば、大徳の風評が味方に付くのだ。
 私がこの場に来たという事実、そして見捨てたという事実。その二つがあれば、徐州の平定は時間が掛かるのは確実。公孫賛を受け入れた劉備と、劉備を見捨てた私を民は比べ初め、じわじわと首を絞められていく事になるのだ。
 同盟を受けてしまっても同じこと。劉備は理想の道をそのままに未来が開けて、民の思想も安定し私の領地内部に毒が残る。
 だから私は劉備軍を此処で追いやりたい。対面的に『劉備軍を助けた』という事実を残しながら徐州の安定を迅速に行い、幽州の公孫賛と大徳の徐公明を手に入れて河北と徐州への先手を打つ。
 劉備という大徳が居なくなれば、徐公明という大徳がこちらの手に渡り、情報操作も容易く行える。『劉備は国を、民を見捨てる偽の大徳なり。徐公明が認めた曹操こそ徳と覇を合わせ持つ真の覇王である』と。
 全ての箱は開いている。だから中身のいい所全部を貰う。通常の王ならば同盟を選ぶだろうけれど、私は劉備にも打撃を与える道を見つけている。
 そして諸葛亮の考えている抜け道は……私に落としどころを付けさせる事。
 それも公孫賛や徐公明のどちらかでは生温いモノ。もっと遠大な思考を以って行われる、覇道を持ったモノが選ぶ落としどころ。
 そしてそれこそが……私の求める答えであり、劉備軍にとって、そしてあの男にとって最悪の選択となり得る。

「だんまり、か。どうしても私の言う事を聞かないつもり?」
「曹操さん、せめて犠牲を減らす道を選びませんか? その後でもう一度交渉を――」
「提示する側はこちらなの。あなたに残されている選択はたった三つ。私の提案を受けるか、それとも戦場へと戻るか、莫大な犠牲を払ってここから逃げ去るかだけよ」

 答えを返すと尚も、口を噤み続ける劉備。あなたがしているこれは脅しだという事に気付いてしているのか……いや、それは言うまい。交渉では当たり前の事。如何に相手側から自身の利を掠め取るか――それこそが交渉の神髄なのだから。
 一刻ほどであろうか。静寂の時間は続いていた。ふいに季衣が後ろで動く気配がした。

「ねぇ、華琳様……あのお菓子見た事ないんですけど……食べていいですか?」
「ちょ、ちょっと季衣! 厚かましいわよ!?」
「だってぇ……お腹すいてきたんですよ〜! 娘娘でも見たことないお菓子だから食べたくて……」

 張りつめた空気が和らぐような愛らしい季衣の発言に対して静かに怒鳴った桂花だったが、少しだけ声音が何時もと違った。

――あなたも食べたいという気持ちが声に透けて見えてるわよ桂花。


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