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乱世の確率事象改変
偽りの大徳
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進んで、私は劉備軍の天幕に脚を踏み入れた。
 簡素ながら綺麗に整えられた机には果物と茶菓子、そして魔法瓶に湯飲み。手前側には煌びやかな椅子、奥には折り畳みの椅子。奥の椅子の横に立っているのは劉備だった。
 客に対しての配慮は上出来。これならば席に着いてもいい。
 私が椅子に座るのを見て劉備が対面に座り、関羽と諸葛亮が劉備の後ろに、私の部下達も同じように私の後ろに並んだ。
 さっと、諸葛亮が手慣れた仕草でお茶を次々に人数分淹れて行く。盆に乗せて皆の前に差し出し、残った三つを自分達のモノとして、諸葛亮は一口だけ啜った。毒見役として私に見せつけ信用を得る為に。普段なら礼を失しているが、そこは目を瞑りましょう。
 目を細めて小さく頷き、諸葛亮がほっと息を付いたのを見てから私は膝を組み、机にゆったりと両肘を乗せて手を組んだ。

「では……交渉を始めましょうか」

 ビシリと幕内の空気が張りつめた。劉備達の顔は緊張に引き締まる。
 先に大きくなるであろう王同士が相対して交渉をするなど滅多にない。私は楽しさに震える心を抑えるのに必死だった。
 キッと力強い瞳を向けて、劉備が大きく息を吸う。圧されないで、空気に呑み込まれないで強気な姿勢を取る所は及第点。例え自らが求める側だとしても。

「初め、私達は徐州を守る為に袁術軍の侵攻を跳ね除けている最中でした。どうにか戦えていたのですが幽州の戦に敗れた白蓮ちゃんが私達に助けを求めてきてから暫らくして、袁紹軍までもが徐州に攻め入ってきました。
 今の徐州の状態……いえ、私達だけじゃ……悔しいけど守りきれないんです。だから……お願いします曹操さん。民の平和を守り抜く為に、一人でも多くの犠牲を減らす為に、私達に力を貸して下さい!」

 短い内容だった。交渉を行うとは思えない程に粗雑なモノだった。ある程度戦い、死活問題となるほどの窮地に追い込まれているわけでは無いというのに助けを求める。厚かましい卑怯者、と通常のモノならば判断するだろう。
 しかし真に迫る物言いは間違いなく正論であり、弱者が強者に求めるだけの単純なモノ。
 王としては間違い。でも、劉備という王ならば正解。
 彼女は民の側に立つ希望の星。弱者を率いる弱者の為だけの王。だからこそ、彼女はこうでなくてはならない。
 私の持つ誇りとはかけ離れている。しかしその姿は、その在り方は、間違いなく私の『下』に必要なモノ。

「そう……相変わらずあなたは優しいままなのね。確かに……私達の力があれば両袁家と孫策軍、全て戦えるでしょう。結果的に見れば、大陸の民の犠牲人数で見れば少なくなるは必至。だけど……交渉には対価というモノが必要なの。あなたも、分かってるわね」

 コクリと、劉備は力強く頷いた。その瞳を哀しげに染め上げて。
 次に言うであろ
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